第17話 夢現人ゆめうつひと
花子さんと校門の桜の精霊と話をする約束をして、こっそり学校から帰る。
校門では桜の花が、舞い落ちていた。
なにもおかしいところのない、普通の桜の木。
ちょっとドキドキしながら茉莉は横を通り過ぎたが、紡はいつも通りだ。
桜の木に対して何もしない。
「今じゃダメなの……?」
「それなりの準備が必要だし、あとは夜じゃないとね」
「え、夜に行くの?」
「もふもーふっ」
花子さんと話していた時には、ポケットに入っていたもふりんがぴょーんと飛び出して茉莉の頭に乗った。
「あぁ。幽霊あやかし精霊なんかは夜に動くってわかるだろ?」
「そうだけど……一人で?」
「一緒に来るかい?」
「えっ……!! よ、夜に出かけるなんて許してもらえないよ!」
「
「ゆめうつひと……?」
「あぁ、俺の家の前で少し待ってくれ」
紡の不思議な言葉に、茉莉は頷くしかできない。
ランドセルを置いてお母さんにメールをしてから、茉莉は紡の未来の店の前で待つ。
すると紡は店の中に茉莉を招いて、何やらピンクのリボンがかけられた包みを持ってきた。
プレゼントのようだ。
「お待たせ、これをどうぞ君に」
「え!? なに!? これ……」
「特製のネグリジェだよ。今夜はこれを着て寝てくれ。夜中に魂だけ迎えに行くよ」
「た、たましい!?」
やっぱり紡はいつも通りで、茉莉はびっくり仰天顔だ。
「そう。なんとなくわかるだろ? 幽体離脱できるネグリジェ。御両親に心配はかけないよ。君の身体はベッドにあるからね」
「これを着て寝るだけでいいの……?」
「あぁ。寝不足にもならないよ。心配なら開けてみて」
言われて茉莉は包みを開いた。
「わー! 可愛い!」
まるでピーターパンのウエンディのような可愛いピンクのネグリジェ、ボリュームたっぷりの柔らかいワンピースのナイトドレスだ。胸元のリボンが可愛い!
「じゃあ、夜の約束はオッケーかな?」
「あの……夜中に部屋に来た時、私の寝相とか寝顔とか見るの……?」
「あはは。俺はレディのプライバシーは守るよ。もふりんがいるから、魂だけ起こしてもらうよ」
「そ、そっか! ちょっと怖いけど……信じる!」
「ご期待に応えよう。じゃあ夜中に迎えに行くけど普通通りに眠っておくれ。じゃあ」
「うん! じゃあ夜に……!!」
「あ、茉莉」
「ん?」
「今日もらった……このタブレット? の使い方を少し教えてほしいんだが」
転校して三日目に、紡はタブレットをもらった。
勉強はできるけど、あやかしにんげん王子にも新しい機械はまだ難しいようだった。
「もちろんいいよん!!」
なんでも紡に、頼ってしまっているような状況だったので茉莉は嬉しくなった。
それから二人で宿題をしてタブレットの使い方を教えて、お菊さんのお菓子を食べてお茶を飲んだ。
お互い別の世界に生きて、三日前に会ったばっかりなのに、びっくりするくらい楽しくて……。
やっぱり不思議に思う茉莉だった。
そしてネグリジェを持ち帰り、夕飯を食べ、両親が帰宅して少し話をして茉莉は寝る準備をする。
「わぁ……可愛い……可愛すぎる……? 私に似合って無くない?」
ウエンディのようなネグリジェを着ると、あまりのラブリーさに茉莉は少し恥ずかしくなった。
でも、もふりんが目をハートにしてお尻をふりふり! 喜んでくれたようなので茉莉はそのまま眠ることにした。
「紡と……この格好で会うのか……ちょっと恥ずかしい……けど……ふぁー……ねむ……おやすみなさい……」
「もふぅ」
毎日の学校はとっても楽しくてとっても疲れて……もふりんと一緒にすぐ眠れる。
そして両親も寝静まり……暗い暗い……夜がくる……。
ザワザワと夜の木々がざわめき、どこか仄暗い闇夜で叫ぶ異形のものが恐れて消えていく。
シャラン……シャラン……と彼が来る……。
「茉莉、
茉莉の部屋の白いレースのカーテンが揺れて、淡い月の光が部屋を照らした。
紡は寝顔を見ない約束を守るためか、目をつぶっている。
シャラン……シャラン……と紡が鈴を鳴らすと、もふりんが茉莉の頬にスリスリする。
「ん……ふわぁ……あ……つ、紡」
「迎えに来たぞ、茉莉」
紡は白い着物を着ていた。
神社の神主さんのような着物か、映画で見た陰陽師のようだ。
髪を結んでいるのもリボンではなく紙のようなもので結んでいる。
「わ……なんかすごい……あやかし王子って感じ……」
「ふふ、似合ってないか?」
「いや、すごく似合ってるよ」
手を差し出されたので、その手を取るとふわりと身体が浮いた。
「ひゃ!?」
「うん、茉莉もよく似合っている。可愛いよ」
茉莉は身体が浮いたことも、サラッと褒める紡に心が追いつかない。
「も、もう~! 今って私は魂だけ?」
「あぁ、ベッドを見てみな」
「あっ……私が寝てる」
ベッドにはすやすやと眠っている自分の姿。
変な感じだ。
「学校へ行くよ」
ピーターパンとウェンディのようだ、とまた茉莉は思う。
紡は思いっきり和服だけど。
手を繋がれて、茉莉はそのまま窓からふわりと外へ出る。
「わっ! わあー! 外飛んでる!?」
「まぁそんな感じだな」
いつもの登下校する学校への道のり。
同じ場所なのに、全然違う。
夜の道。
車で通るのとも、両親と歩くのとも違う。
目線が家の2階くらい!
ふわふわ浮いて、飛んでいる!
信じられない……!!
「そんなに強く握らなくても落ちたりしないよ」
「あっ! ご、ごめん!」
ふわふわと上下しながらの横移動で思わず紡の手を握りしめていた。
「でも離さないで。離してすぐどうにかなるものではないけど」
「う、うん……!」
ここ数日で何回、紡の手を握ってるんだろと思いながら学校への最後の角を曲がる。
月に照らされて、校門横の桜の花が舞っている。
随分もう葉桜になってきてしまったけど、綺麗だなと思っているうちに校門をヒラリと飛び越えて根本に着いた。
「一度手を離しても大丈夫だよ」
「わかった。桜の精霊は……ど……どこにいるんだろ」
茉莉はキョロキョロ見回すが、どこにもいない。
「呼びかけるのさ。もし、桜の精霊よ。我が名は闇土門紡。あやかしと人間の橋渡しをする役目だ。今日はあなたに伺いたい事がある……どうか姿を現したまえ……」
シャリン……シャリン……とまた紡が鈴を鳴らす。
「あ……っ!?」
二人の前に、桜の花が集まり塊のようになっていく……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます