第16話 学校の歴史


 今日の学校給食は、ソフト麺のトマトソースだった。

 茉莉も大好きなメニュー。

 色々あるけれど食欲はいつも通り!

 食べるが元気の源だ! と思う。

 

「小学校の給食って美味しいものだな」


 紡は、まるでレストランのように自分で用意したナプキンを膝に乗せて味わっている。

 昨日もそうだったので、真似しだした女子も数人いる。

 

「おいー! 紡~昼休みドッジボールできないなら放課後、公園で集まろうぜ!」


 紡を馬鹿にした男子が、ちょっと遠くの席から紡に叫んだ。

 なんやかんやで、すぐ仲良くなったらしい。

 

「放課後か……放課後までに予定を決めるよ。ちょっと急ぎの用事ができるかもしれない」


「なぁんだよー! こっち優先にしろよ! 体育での借りを返したいし、フォルフォルナイトやったことないんだろ!? 見せてやるからさ!」


 フォルフォルナイトは人気ゲームだ。

 茉莉はあまりゲームはしないけど、名前はもちろん知っている。

 みんなもワイワイ、どこの公園!? 俺も行く! など騒ぎ出した。


「昼休みに、ちょっと調べものがあるんだ」


「なになに、どこ行くの!? 紡君!」


 他の女子も興味がわいたようだ。


「こらこら! 給食時間に遠くから叫びませんよー! 五年生でしょ!」


「「はーい!」」


 結局その騒ぎから、ほぼクラスの全員が紡と一緒に学校の歴史を見に行くことになったのだった。

 

「母校について知ろうとするのは、良い事ですね!」


 大勢が集まって、校長先生はとっても嬉しそうだ。

 ゾロゾロと廊下を歩いているので、興味を持った他の学年の子も一緒になってくる。

 茉莉が言っていた通り、150周年の記念の際に撮られた写真や年表、校長先生の写真や地図が飾られた教室だった。


「……でも三本桜についてなんて……書いてあるわけないか……」


「60年前に校庭の改修工事が行われたって書いている。花子さんが埋めた前だろう。それ以来工事はされていない……。校長先生に資料はないか聞いてみよう」


 コソコソと二人で話をして、校長先生の元へ行く。


「校長先生、校庭にあったと言われる三本桜の資料になるようなものはありませんか?」


「調べてみようと思います。桜の植樹会があったかもしれないですね。ちょうど10周年ごとに出される学校文集を過去のものからPDF化しようという話がでていたんですよ」


「ぴーでぃーえふ?」


 紡はわからない顔をする。

 ゲームもそうだが、現代の新しい技術のことはあまり知らないようだ。

 まぁ茉莉にもよくわからないのだけど。

 

「紙の文集をパソコンのなかのデータにして、ボロボロになったりせずにいつまでも読めるようにすることですよ。その文集の中の題名に桜、とあるのをさっき目にしました」


「誰かが、三本桜のことを作文にしているかもしれないってことですね!」


「そういうことです」


「ふむ……校長先生、それは俺……僕達にも読むことができますか?」


「なにやら大きな調べ物をしているのかな? それでは放課後までに桜の題名の話をプリントしてみましょう」


「ありがとうございます!!」


 校長先生がここまで生徒の願いを聞いてくれるのか茉莉にはちょっと不思議に思った。

 ちょっとだけ紡の瞳が妖しく光った事は誰も知らない。


「作文で、わかるかなぁ……」


「大丈夫、少しずつ近づいてるさ。俺は放課後、花子さんの様子を見に行く」


「じゃあ私も一緒に行くよ」


「あぁ。じゃあ放課後ゲームはおあずけだ」


 きっと、みんなガッカリするだろうけど花子さんを助けるためには急がなきゃ! と茉莉は思う。

 そして放課後に校長先生から、印刷された紙を数枚受け取った。


「用事が済んで行けたら行くよ」


 みんなにはそう説明して、こっそり二人は家庭科室横のトイレに向かう。


「本当だ……前よりどんよりしてる気がする……花子さぁ~ん……」


『ううう……ううっ……さびしいわ……さびしいわ……』


「花子さん、出ておいで。俺達だ」


 花子さんの悪霊化は進んでいるのか心配になる。

 紡の力で、花子さんは女の子の姿に戻った。

 人目がつかないように廊下のすみっこに行く。

 

「ツムグ! マツリ! また来てくれたのね! どう見つかった?」


「それがまだ……」


 花子の期待の目が痛い。


「でもこんな作文を書いた生徒がいた……読むよ『三本桜が枯れてしまうかと心配だったけど、一本は助かってよかったと思いました』ってさ」


「えっ……!! じゃああの校門の桜は三本桜の一本なんだね……!」


 紡の読んだ作文で新しいことがわかった。

 茉莉も驚く。


「根の下だったら危なかったけど、10メートル先なら大丈夫かな」


「確かに! 移動するんだったら掘り起こしてるはずだもんね」


 そこで終了にならずに済んで良かったと茉莉は安心のため息をはいた。

 

「……でもプレゼントの場所はわからないじゃないの」


 花子さんは少し不満げだ。


「うん、でも桜本人に聞けばいい」


「えぇ? どういうこと?」


 花子さんの方が不思議そうな顔をする。


「まさか……精霊……?」


「あぁ。登下校に様子を伺っていたんだが、きっと会えるだろう……暗くなってからだけどね」


「じゃあやっと場所がわかるのね……! これでヒロシ君からのプレゼントが……!」


「えっ……花子さん、今……ヒロシ君って言った??」


 言われてハッとする花子さん。


「あ、私、思い出した! ヒロシ君……っていう名前だったわ!」


「わぁ! やったね!」


 茉莉がついハイタッチしそうになったけど、やっぱり幽霊なのですり抜けてしまう。

 でも花子さんは嬉しそうだ。


「自分の名前は?」


「……それはまだ思い出せないわ」


 自分の名前を思い出せないのに、好きな男の子の名前は思い出せるんだ……と茉莉は恋って複雑だなと思った。

 

 


 

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