第14話 紡からのプレゼントはもふもふ式神!


 今日出逢った幽霊の花子さん。

 恋の相手の男の子と交換する予定だったタイムカプセル。

 その中身がなんだったのか知りたい、それが未練。


 三本桜の木から10メートル北に埋めたらしいけど……もう目印になる桜の木はない。


「先生も数年で移動があるし……そんな昔の事を知っている人はいなさそう」


「確かにね、学校の歴史とかそういう資料はないんだろうか」

 

「学校の歴史はあるよ!! 年表みたいなのと校長先生の写真が飾ってある部屋がある」


「よし、そこを見に行こう……あとは、桜の精霊にも話を聞こうか……切られた木の精霊はもういないだろうけど」


「精霊……! 会いたい会いたい! 木は無くてもタイムカプセルはあるといいね」


「そうだね。数十年前だから……」


「もしもなかったら……花子さん、どうなっちゃうの? 悪霊になっちゃうのかな」


 お菊さんが淹れてくれた紅茶はすごく良い香りがして……紅茶がこんなに美味しいだなんて茉莉は初めて知った。

 紡は紅茶にミルクを淹れる。


「それは俺が……させないようにする」


「あやかしにんげん王子って、そんな事ができるの?」


「さまよえる魂を救うのも仕事だよ。あそこで悪霊になられたら子供達にも影響が出る」


 花子さんが悪霊になって、本当の恐ろしいトイレの花子さんになったら……。

 悲しいし怖い。


「絶対に見つけよう!」


「そうだね、まずは三本桜の場所だ。茉莉、お菓子も食べなよ」


「うん、ありがとう。……なんか昨日会って今日なのに、変な感じ」


「うん。この家を決めて小学校を見に行って、君と同じ手芸クラブで……偶然なんだけど運命なんだろうな」


 サラッとドキッとする事を言う! と茉莉は思う。

 照れ隠しに水色のマカロンを食べた。


「美味しい~!」


「お菊さんはなんでも作れる人なんだよ。美味しいよね」


「えっ……! 手作り……! すごい」


「お褒めのお言葉ありがとうございます」


 お菊さんはにっこり微笑む。


「店ができたら、可愛いお菓子も置きたいなと思っているよ」


「最高だね!」


 ふと気付くと葉っぱのあやかし達も、テーブルの上で踊りだしていた。

 紡はティーセットのシュガーポットから角砂糖をひとつ取り出して、葉っぱ達の真ん中に置いた。

 葉っぱ達は嬉しそうに周りを踊ると、角砂糖はみるみるうちになくなっていく。


「可愛い……でもさ、やっぱり怖いあやかしもいるんでしょ?」


「まぁね」


「いつでも紡と一緒にいるわけじゃないし、家が隣でも塾に行くこともあるし……」


「うん、不安もあるだろう。お菊さん、俺の生地収納部屋からピンクのプードルファーの生地と綿を持ってきてほしいのですが」


「はい」


「ぷーどるふぁー?」


 首を傾げる茉莉だったが、お菊さんが持ってきたプードルのようなふわふわの生地を見てなるほどと思う。

 お茶を片付けたテーブルに、紡が裁縫箱を魔法のように置いた。


「う……ハサミ」


「俺が扱うぶんには、何も怖くないさ」


 そう言うと紡はシャキンシャキンとプードルファーを二枚重ねて、楕円形のような形に切っていく。


「何を作るの?」


「君を守る、俺の式神」


「えっ??」


「じゃあ今日のおさらいだ。玉結び、並縫い、玉止め」


 紡は針と糸を取り出す。

 すごくキラキラに見える針だ。

 糸は同じピンク色だった。


「うんうん、おさらい。縫うんだね」


 もこもこした生地を、両方裏返しになるように合わせる。


「そう、二枚合わせた楕円形の布の1センチくらい内側をぐるりと縫う……」


「ふむふむ……袋?」


 紡の手さばきはさすが!

 まるでミシンのように細かく、そして綺麗に縫っていく。


「さて」


「途中でやめちゃうの?」


「ここでひっくり返す」


 もこもこした表側を、まだ縫い合わせていない部分から引き出した。

 そして綿を入れていく。


「わ! もふもふ!」


「今日はおさらいもかねてるから、最後も並縫いで縫ってしまおう。縫い目が見えても可愛いだろ」


「うん!」


 丸いもふもふのぬいぐるみが出来た!


「目は裏がテープになっているやつでいいだろう」


 シャカシャカ黒目が揺れるタイプの立体シールを、二つ貼った。

 紡は両手ですくうようにして、もふもふを持つ。

 

「取れちゃわない?」


「最後に俺の力を込めるから大丈夫だ、さぁ式神よ……! 闇土門紡の名において命ずる!」


 紡の髪が揺れ、瞳が光った。


「わっ」


 すると手のひらのもふもふが、ビクビクッと動き始めた。


「茉莉、もふもふに手を重ねて」


「えっ!? わかった!!」


 もふもふの上の手を重ねる。


「お前は、この苑野茉莉を守護する存在。彼女の眷属として使命を果たせ……!」


 茉莉の乗せた手があたたかさを感じ光が漏れた――!


「もっふもっふ!」


 可愛い声がした!


「わぁ!!」


  手をどかすと、もふもふは飛び跳ねて茉莉の頭の上に乗る。


「もっふもっふ!」


 それから肩に乗ると茉莉の頬に頬ずりをしてきた。


「きゃわいい……!!」


「まだ赤ちゃんだけど君を守る力はあるよ。式神が傍にいれば余計なものも見えない。育てるつもりで一緒にいてあげて」


「わぁ~嬉しい!! 喋るようになったりするのかな?」


「なるよ」


「私ずっとペットが欲しかったんだ! でもお母さん達が忙しいから無理で……」


「もふぅ!!」


「ペットじゃないってさ」


「あ、ごめんね。お友達だね。よろしくね!」


 なでなですると嬉しそうだ。


「名前を決めてあげな。君が主人だ」


「えーいいの?? じゃあ、じゃあ~もふりん!」


「もふもふ!」


 もふりんと呼ばれて嬉しそうに茉莉の手の上でぴょんぴょん跳ねた。


「へ、へぇ……いいんじゃない?」


「あ! 笑ったぁ 小さい頃にもふもふうさちゃん飼いたくて、その時に考えた名前なの!」


「じゃあいつか耳をつけてあげるといい」


 今度は紡の頭にもぴょーんと飛び乗った。

 

「えー痛くないの?」


「もふりんには痛覚はないよ」


 痛覚がないって事は、痛みを感じないって事かと茉莉は思う。


「そうなんだ……餌は?」


「茉莉の元気さ」


「えーー! 生気を吸われる感じ?」


「はは、命に関わるようなことじゃない。笑顔パワーだよ」


「それなら大丈夫かな!!」


 あはは! と茉莉が笑うと、紡も笑った。

 それから家に帰ってお母さんが帰宅すると、お菊さんを連れた紡が引っ越しの挨拶に来たのだった。

 お母さんは驚きながらも紡を見て『イケメンね』と嬉しそうに話した。


 もふりんは茉莉と紡以外には見えないようだったけど、独り言ばっかり言ってると思われないようにしなきゃと思う。

 ネグリジェに着替えて、もふりんとベッドに入った。

 

「今日はものすごく色んな事があったなぁ」


「もふもふぅ」


「これから色んな事が起こりそうだね」


「もふもふ」


「おやすみ、もふりん」


 可愛いものが大好きな、かっこいいあやかしにんげん王子の紡。

 すごい体験を色々してる。

 まるで夢の中のような今日を思い出しながら茉莉はすぐ眠りについた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る