第10話 あやかしにんげん王子
「あやかしにんげん……王子?」
「まぁ、あやかしに近いんだろうけど、どっちにも属しているんだ。あやかしと人間の間にいる存在だよ……」
「紡が……? なんでそんな人が小学校に……」
「えーっと……ちょっと話が長くなるんだが、此の一帯は力の流れが強くて百鬼夜行を導く場所なんだ。で事情があってこの街に滞在する事になった。で決めた家の場所から通える学校はここ」
あやかし達は姿を隠したけど、まだ世界は歪んだまんまだ。
「王子なのに学区は守るんだ」
「そりゃそうさ。でも最終的に決めたのは君の声」
「私?」
「そう、人間の世界で俺は裁縫や手芸をやりたいと思っててね……。勉強もしたいし学校にも行きたい。それなら手芸クラブもやりたいなって思った時に……手芸クラブが作れないって会話が聞こえてきた」
「あ……あの時……」
担任の先生と話した時に、おぼえた違和感。
いろんなものが、通り過ぎる感触があった……!
「手芸クラブを作りたいっていう声が聞こえて、俺は作ってもらおうと決めたのさ」
紡が此処に来た理由はわかったが、今知りたいのはこの状況だ。
「……わ、私はどうなっちゃったの? このままおばけになっちゃうの? あやかし? 幽霊……?」
「……いや元々、茉莉には素質があって……がっちりと人間の世界にあるはずの自分の魂の縁をさっきのハサミでうっかり切ってしまったんだ」
「えぇ!! ど、ど、どうしよう」
泣きそうに……いや、もう半分泣いている茉莉だ。
「大丈夫。針と糸を扱えるようになれば、自分で縫って直せるさ」
紡は動揺させないように力強く言った。
『直せる』の言葉にホッとする茉莉。
「……自分で縫えるように……」
「そう、ほころびなく綺麗に……美しく……寸分違わず……」
「えっ……紡がやってよ!!」
「俺も縁切りや縁結びを使う場合はあるけど……茉莉の場合は健全で必要がないのに切ってしまったから、自分で縫わなければいけない。申し訳ないが俺にはできないんだ」
「そんなっそんなぁ! 切ってしまったら、どうなるわけ!?」
「……だから、見えるんだ。どっちの世界のものも……」
「やだやだやだぁああ!! 怖いの嫌いだよぉおお!!」
「茉莉……」
白黒の世界。止まった校長先生の前で茉莉は叫んだ。
紡もさすがに困った顔。
「コラ! 娘! 怖いの嫌だの! 決めつけおって!」
「ひゃっ!?」
ぴょん! と半泣きの茉莉の肩に何かがくっついた!
「わしらは、人間に害を与える存在じゃあ、ないわい!」
「そうだ! そうだ! 悪いものだと決めつけるなぁー!」
頭の上にも何か乗っかる。
「ぎゃーーー!!」
「やめろ、お前たち!」
「「だって王子~! わしら、なんにもしないのにぃ」」
「ひぃ~っ! ……って葉っぱ?」
肩の上にいるのは、紅葉の葉っぱに目と口を書いて手足が生えたようなあやかしだ。
頭の上にいたあやかしも、ヒラリと眼の前に降りて茉莉の手のひらに舞い降りた。
こっちは桜の葉っぱのような丸い形だ。
同じように、目と口と手足がある。
「わしらは、葉っぱのあやかし。ただヒラヒラ舞い踊るだけじゃ」
「……ちょっと可愛い」
茉莉が泣くのをやめたので、紡はほっとしたように息を吐いた。
「茉莉が自分の魂を縫えるようになるまでは、俺が守るし手芸も教える。だから泣かないでくれ」
「……もう、そんな危ないハサミ出しておくなんて……ひどいよ」
「悪かったよ。まさか無意識に縁を引っ掛けて切ってしまうほど力があるとは思わなかった」
「こら娘、お前が勝手に使ったんだぞよ」
「……それは、私が悪い……けど」
「お前たちやめろ。俺が悪いんだ」
「……危ないこと、ないよね……?」
「大丈夫、俺がついてるよ」
紡はいつもどうり、自信たっぷりに言う。
その顔を見て、茉莉も少し安心した気持ちになったのだが……。
『あのぉ~~~~~すみませぇ~~~~ん~~~~~』
おどろどろどろどろ~~~!!
いわゆる人魂というような炎がボッボッボッと現れた。
それと同時にひく~~い声が響く。
「ぎゃああああああああああ!! 幽霊!!」
茉莉の叫び声が響く。
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