第8話 昼休みのドッジボールと、はじめてのクラブ
放課後クラブ活動の前の昼休みは、みんなでドッジボールをした。
最近のクラスで、一番人気遊びだ。
「いいぞー! 狙え! 狙え!!」
男子達がビュンビュンと、ボールを投げる。
「ちょっとぉ! 男子強く投げすぎ!」
女子からのクレームだ。
「こんなの普通だろ!」
「私にまかせて!」
茉莉がバシィ! とキャッチする。
内野に残っている女子は、もう茉莉だけだ。
そして隣には紡の姿があった。
彼はドッジボールに誘われると、本を閉じて笑顔で参加したのだ。
並んで驚いたのがクラスで1番背の高い茉莉より、紡は背が高かった。
「えい! あっ失敗!」
茉莉が投げたボールは相手の内野を一撃したが、跳ねたボールが取られてしまった。
「紡を狙え!!」
なんとも華麗なる転校生を、気に入らない男子が数人いるようだ。
クラスの女子のほとんどが紡にキャッキャしているだけではなく、今日は周りのクラスからも紡を見に来る人がいっぱいいた。
そこでも紡を笑おうとする人がいたが、紡は一切気にする様子はない。
むしろ最後はファンになって教室に戻って行く。
そんな不思議な魅力が紡にはある。
「紡! くるよ!」
茉莉が叫ぶ。
「あぁ大丈夫さ」
紡はクスリと笑うと、風のようにボールをかわし、かわすだけではなくボールもキャッチしていた。
黒髪とリボンとレースが揺れる。
「えぇ!? すごい……!」
「じゃあ俺からもいくぞ!!」
紡も遠慮なく、力強いボールを投げつけた。
相手に当たって、またキャーと紡を応援する声が響く。
最後に相手を全滅させて、茉莉と紡の勝利!!
「やったー!! 紡って運動もすごいんだね!!」
「まぁ、それなりにね」
運動もできて、手芸もできる。
昨日やった算数のテストも100点だった。
一体彼は何者なのか!?
ただの小学五年生。
それ以外ありえないのに、なぜか気になる。
そして今日は、五時間目の終わりで帰りの会。
六時間目はそれぞれのクラブ活動だ!
みんながはしゃいで、活動場所へ行く。
「手芸クラブは家庭科室かぁ……」
紡は気付いたら、もう教室にはいなかった。
茉莉もワクワクして、家庭科室へ向かおうとする。
三年生までは五時間目で帰宅するので、一階はワイワイ混み合っていた。
でも家庭科室への廊下は玄関の反対側。
もう静まり返っている給食室を越えて、どんどん静かになっていく。
シィーン……。
節約で廊下の電気も、ところどころしか付いてないので薄暗い。
楽しみでワクワクしていたのに、ゴクリと唾を飲んでしまう。
奈緒子ちゃんが言ってた……学校の怪談話。
『一階の家庭科室の横のトイレに花子さんが~~出るんだって!!』
家庭科室が見えてきたけど……トイレも見えてきた。
は、早く家庭科室に入ろう! そう思って家庭科室のドアに手をかけるが鍵がかかっている。
「え!? な、なんで……!」
キィイイっと何か嫌な音が聞こえた気がして、一気に恐怖心がこみ上げる。
「茉莉」
「ぎやぁあああっ!」
後ろから声をかけられて思わず叫んでしまった!!
後ろを向くと、紡だった……。
「ごめん、驚かせて」
「ひっ……い、いや、私こそ……ごめん……! 叫んじゃって!」
「大丈夫?」
「う、うん……! な、なんか薄暗くて……怖くなっちゃった……ってアハハ。なんか開いてないんだよー」
「……たしかに……此処は……ね。あ、鍵は俺が持ってきたんだ」
紡はいつも通りに微笑むと、チャリンと鍵を見せてくれた。
「え? どうして?」
「うん、ちょっと職員室に呼ばれてる時に手芸クラブの担当の先生がさ、担任の堀川先生になったらしいのだけど生徒の付き添いをしないといけない用事ができたって。で今代わりの先生を探してるらしいから、俺がとりあえず鍵を開けますって言ってきたんだよ」
「そうだったんだぁ」
「うん、待たせたね」
「ううん、代理の先生来るのかな?」
紡は家庭科室の鍵を開ける。
二人で中に入って、ランドセルを置いた。
「校長先生が、と言ってたけど。とりあえず今日は自己紹介と玉止めと布を切るだけだって教えてもらったから先に進めておくって言っといた。忙しそうだったからね」
「紡って……しっかりしてるねぇ」
「あはは、別に……まぁ人間の十歳に比べればね」
「えっ!?」
「いや、俺は外国で一人の時間も多かったから、この国の人間の……っていう意味さ」
「あーなるほどね」
人間じゃないの!? なんて思ってしまった茉莉。
そんなわけないかー! と頭をかく。
「じゃあ、始めようか。手芸クラブ第一回目、自己紹介をするんだってさ」
「あはは、私と紡の二人しかいないのにねぇ」
「俺はまだ、茉莉の名前しか知らないから君のことをもっと知りたいよ」
「えっ」
まだドキッとする事を言う。
「どんな想いで手芸クラブに入ったのか、とかさ」
「どんな想いで……」
「うん」
「……あの、半年前にミュージカルを見てね。ドレスとかフリルとかリボンとか大好きになっちゃったんだ。で、そういうものを自分でも作ってみたいなって思って」
「そうなんだ。素敵だね」
ドキドキして下を向いて話したけれど、優しい声で上を向くと紡はやっぱり微笑んでいた。
「あ、ありがとう……前まではスポーツとか好きで……だから、みんな手芸クラブに私が入るなんてびっくりしてたんだ」
「俺もスポーツは好きだよ。どっちも好きでいいんじゃないかい」
「う、うん……昨日、紡が好きなもの着るって言ってて……すごいなって思ったんだ。勇気をもらったよ」
恥ずかしいけど、御礼が伝えたくなった。
「じゃあ、それでリボンを?」
「う、うん。みんなびっくりしてたでしょ。意外だったからだよ」
「可愛いからじゃないかい? 似合ってるよ」
「……あ、ありがと……紡も……すごく可愛いしかっこいいよ」
「ありがとう。大好きなんだ。可愛いアイテムもかっこよく生きるのもね」
金色の瞳は自信たっぷりだ。
身近でこんなに自信たっぷりな人は見たことがない。
「じゃあ、可愛いもの大好き同士で始めようか!」
「う、うん!」
校長先生はまだ来ない。
きっと忙しいのだろう。
こんなことは滅多にないんだろうけど……。
「これは先生から、茉莉が使う裁縫道具だよ。これは俺のやつ」
茉莉にはシンプルな白い裁縫箱は渡される。
先生が使うものなんだろう。
そして紡の裁縫箱は……。
アンティークな金属製。
全体の色は黒。
細かな彫刻がされていて、ところどころに宝石のような色の付いた石が輝いている。
可愛いというよりは、重厚ですごい迫力がある裁縫箱だ。
「うわ……すごい……!! 宝箱みたいだね!!」
「これは、御祖母様の持ち物で俺が引き継いだ物なんだ。年代物だけど、しっかり使えるよ」
「へー! へー! 私もね、五年生で買う裁縫箱どんなやつにしようかずーっと考えてるんだけど、こんな素敵な裁縫箱もあるなんて」
「俺はこれを使うけど、カタログプリント見るのは楽しみだな」
「うんうん! まぁ今日は先生のを借りるけど……今日は、何をしたらいいんだろ」
紡がさっき今日やることを言っていたけど、なんだっけ? と思う。
「今日は、まず針に糸を通すのと、玉結びを覚えようか」
紡は自分のアンティークな裁縫箱を開けた。
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