第5話 俺は好きなものを着る!
紡のバッサリした応えに、教室がシーンとなっている。
「え、いや……だってリボンとか女がするもんだし、ピンクだって……なあ? 女の色じゃん! 恥ずかしいじゃん!」
「ピンクが女? ……なんで色に性別があるんだ? 俺は情熱の赤に無垢な白を合わせると、こんなにも美しく可愛くなるピンクが大好きなだけだ。好きな色を身に着けたら恥ずかしいのか? その感覚が俺にはよくわからん」
「えっ……」
「そ、そうだよ! なんでピンクが女の色なの!? そんなのおかしい!」
茉莉が叫んだ。
あっ……! と思ったけど、もうみんなが茉莉を見た。
言われた男子は、顔が真っ赤になっていく。
茉莉も叫んでしまって、変な汗が出た。
紡を見ると彼は茉莉を見て、微笑んだ。
ドキッとする。
紡は怒っているわけじゃない。
「で、でもリボンだって女がつけてるものじゃんか!!」
男子はピンクの話はやめて今度はリボンの事を言い始めた。
紡は不思議そうに首を傾げる。
「リボンも紐を結ぶことによって造られるこの形、芸術だとは思わないか? 美しく可愛い。レースも可愛い。そう思って俺は好きなものを身に着ける……何かおかしいか?」
紡は自分の首元に揺れるリボンタイを指先で撫でた。
茉莉もリボンはとっても可愛いと思う。
「いや……だって……そういうの……あんまりいないっていうか……」
「あんまりいないだけ? あんまりいないと恥ずかしいのか? それとも俺のリボンは君に迷惑や不快感を与えてるのかな?」
「いや……ぐぐぐ……そうじゃないけど……」
男子はまさか言い返されると思っていなかったんだろう。
紡は単純に、男子の言い分が理解できないようだった。
「俺は誰に否定されようが、校則やマナーに違反しなければ俺は俺の好きなものを身につけ好きな服を着る……! それが俺の生き方だ!」
5年生とは思えない、しっかりとした話し方。
力強い言葉!
クラス全員が彼を見つめている。
隣の茉莉も、目が離せない。
彼がキラキラと輝いているように見えた。
「かっこいい」
ポロッと言ってしまった茉莉の後に、みんなが『かっこいい!!』と騒ぎ出した。
「ありがとう」
紡が茉莉に微笑んで御礼を言うと、更に女子のキャアアア! と喜ぶ悲鳴があがった。
男子は小さく『ごめん』と謝った。
男子を責める声も聞こえ始めた。
「みんな、いいんだ。彼を責めないでくれ。俺の格好は確かに此処では珍しい。不思議に思ったんだろう」
それから急に紡の周りにクラスメイトが集まりだした。
すぐに休み時間は終わってしまったけど、それから紡の周りには女の子がワイワイ。
「はぁ……闇土門君すごい」
茉莉は隣の席で、そう呟いた。
それに恥ずかしくなった。
リボンとフリルが好きなんだから、きっと言い返せない子だって思った自分が恥ずかしかった。
だってそういう印象で茉莉は悩んでいたのに、自分もそう思うことが恥ずかしかった。
帰りの会。
「えーっと、ちょっと闇土門さんの話を聞きました。着ている服装や髪型って、その人の心を現すものですよね。それを自分の考えだけで否定したり、笑いものにするなんてあってはいけない事だと先生は思います」
クラスのみんなが頷いた。
茉莉も頷く。
「色もそうですね。デザインもそう。今回は闇土門さんは気にしていない大丈夫です、と言ってくれたけど相手の大好きを心無い言葉で一生封印してしまう事にもなりかねない。だから、まずは『あなたはそれが大好きなんだね』って認めるところから始めてみましょうね。このクラスでの、いじめや冷やかしはみんな絶対に許さないようにしましょう」
「「「はい!!」」」
言った男子は俯いていたけど、反省したようだった。
茉莉も『大好きを封印』という言葉が心に刺さった。
紡の方を見ると、目が合ってにっこりしたのでビックリして目をそらしてしまった。
「それでは、明日からクラブが始まります。みんなそれぞれ用意が必要な方は準備してくださいね」
みんながわーい! と嬉しそうに叫ぶ。
「あ、闇土門さんと苑野さんは、この後、会が終わったら来てください」
「えっ」
「はい」
みんなが二人を見た。
茉莉は、なんだろうとドキドキする。
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