第3話 茉莉の秘密



 結局、手芸クラブは新しくできることは確かなようだ。

 でも、他の誰にも言えないままで茉莉は家に帰ってきた。


 去年建てたばかりの、新築の家。

 赤い屋根に白い壁が可愛い、二階建てのお家!

 花壇の花がイキイキと咲いているのが嬉しくて、笑顔で眺めた。


「ただいまーーー!!」

 

 でもお父さんもお母さんも仕事で忙しいから、家には誰もいない。

 お父さんは中学校の先生、お母さんは小学校の先生をやっている。

 二人とも、とっても忙しいのだ。

 一人っ子で小さい頃から続いてきた事。なのでもう慣れっこだ。

 ランドセルを置いて、うがい手洗い。


 『帰ってきたよ』とお母さんにメール。


 夕飯は冷蔵庫の作り置き。

 その前にお菓子を選んで、自分の部屋に行く。


「今日も可愛い!!」


 お気に入りのマイルーム。

 その部屋はリボンにフリルに、レース。

 色合いはピンク!

 そしてドレスを着たお人形と、もふもふのぬいぐるみ。


 半年前に、ミュージカルを見た。

 その話は異世界の王宮が舞台で、可愛いドレスを着たお姫様が踊り歌う。

 

 素敵なお城に、リボンにフリルにレースの世界!!


 茉莉は夢中になってしまった。

 今までスポーツが好きで、シンプルなかっこいいものが好きだと思っていたけど今ではリボン大好き!


 フリル大好き!

 お姫様大好きーー!!

 なので家を建てる時にベッドもお姫様のような天蓋付きの白いベッドを買ってもらった。


 ベッドカバーもピンクのフリル付きだ。

 ドレスを着たマツゲの長いプリンセス人形も、クリスマスプレゼントにもらったものだ。


「今日も漫画読もう~! あぁ~可愛いなぁ」


 茉莉はミュージカルの原作漫画も読んでいるのだが、茉莉が好きなのがヒロインよりも彼女のドレスを仕立てる仕立て屋の女の子だ。


 彼女は仕立て屋だから一般市民なのだけど、ヒロインにドレスを作り自分もドレスを着てパーティーに出たりする。


 彼女の作ったドレスやリボンは大人気で、市民なのに隣の国の王子様と恋に落ちるという、そのストーリーに茉莉はもう憧れがとまらなかった。


 なので自分も作ってみたいと思ったのだ。

 小物なんかも作ってみたい。可愛いリボンも作りたい。

 そんな手作りの可愛いものに囲まれていたい。


 だから手芸クラブに入りたかった……!

 

「でも~……なかなかみんなには言えないよ」

 

 そう。

 今まで元気いっぱいスポーツ大好き!

 ショートカットにTシャツにズボン! そんな自分のイメージを茉莉は知っている。


 一度、可愛いリボンのついたヘアピンを短い髪に付けていったことがあるけど学校に着く前に男子に指摘されて恥ずかしくなってポケットに入れて……それからつけてない。

 

 髪も本当は伸ばしたい……。

 奈緒子ちゃんみたいに結ってみたい。

 でも美容室で『いつもの感じでいいの?』と言われると、なんだか恥ずかしくて『はい』と言ってしまっていつものショートカットになる。


 この部屋も両親が留守の時は、友達を呼ばないというルールでまだ一人も来たことがないのだ。


 手芸クラブに入る、なんてみんなにバレたら笑われるかな?

 でも、笑われてもやっぱり手芸はしたいと思った!


「一人じゃないし、転校生の子もいるし……大丈夫だよね……」


 どんな子なんだろう?と不安もあるが楽しみの方が多い、そう茉莉は思った。


 





 

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