第2話 あなたはなんのクラブにはいる?


 教室に戻ってからも、まだワイワイと話をするクラスメイト達。

 みんな新しいクラブは、何にするかで盛り上がっているようだ。


「ねぇ、茉莉~! 五年生でのクラブはやっぱ、サッカーにするの?」

 

「いや……今年はサッカーはやめとこっかなぁ」


「えーまじで? じゃあ……バスケとか?」


 運動神経バツグンの茉莉は、いつもスポーツで注目される。

 四年生で入っていたサッカークラブでは、いっぱい得点を入れた得点王になった。

 だからみんな、茉莉が運動クラブに入ると思っている。


「えっと……秘密、えへへ!」


「え~なによ」


 五年生で、初めて同じクラスになった奈緒子ちゃん。

 いつも可愛いスカートを履いて、髪にもリボンをつけて二つに結っている。

 

 大好きな友達だけど、つい言えずに秘密にしてしまった。


「そういえばさ~うちの学校にもトイレの花子さんが出るって噂知ってる?」


「えっ? や、やだぁトイレ行けなくなっちゃう」


「茉莉って、怖いの苦手なの? スポーツ万能なのにさぁ」


「スポーツと怖いのは関係ないよ! 怖いの嫌い!」


「そっかぁうふふ、一階の家庭科室の横のトイレに花子さんが出るんだって!! 隣のクラスで幽霊見える子が見たんだってさ!」


「きゃあー! もう嫌だってばぁ~~!! 奈緒子ちゃんの意地悪~!!」


「えっへへ! ごめんごめん!」


 茉莉が通う、尾渡呂おとろ市の尾渡呂小学校。

 市の中で1番大きくて、人数も多い小学校。

 五年生でも、四クラスもある。

 なので学校の校舎も五階まであるし、フロアも広い。

 家庭科室は一階だけど、奥階段の方にあるので薄暗く……あまり行くことのない場所だ。


「なになに花子さんだって~!?」


「きゃー! 怖いの聞きたい!」


「はい、授業始めますよ~!」

 

 奈緒子ちゃんの怪談話に、みんなが反応しかけたその時、授業が始まった。

 走り回った後でも茉莉は一生懸命、授業を聞いた。

 算数は少し苦手だけど、小テストはなんとか80点。

 そして授業が終わった後。

 

「茉莉さん、放課後にちょっとお話があるけどいい?」


「あ、はい!」


 茉莉は元気よく返事をする。

 担任の先生の、堀川先生。

 小学生の子どもがいる、女の先生だ。

 鬼ごっこも一緒にしてくれるし、パソコンにも詳しい。

 ゲームもするからみんな大好きな先生!


 茉莉は放課後に、先生と廊下のすみっこで話をすることになった。


「あのね、茉莉さんが希望していた手芸クラブなんだけど……希望者が茉莉さんしかいなくてね」


「えーー!?」


 今1番人気なのはパソコンクラブ。

 漫画クラブやダンスクラブも人気だし、サッカークラブは男子に人気だ。

 茉莉は手芸クラブがないことは知っていたのだが、それでも作ってもらうことはできないか堀川先生に相談していた。


「せめて、もう一人いたら……って話だったんだけどね。結局いなくて」


「……そうなんですか……」


 茉莉にとっては、勇気を出して相談した事だった。

 はじめは先生もとても驚いていたのが、顔を見てわかった。


 いつもスポーツメーカーのTシャツに、動きやすいズボン。

 またはジャージで、いつも走り回っている茉莉。

 そんな自分が周りにどう思われているのか、よくわかっていた。


 スポーツ大好き活発少女。

 シンプルでかっこいいものが好き!!


 手芸なんて縁がないと思われるのはわかってる!

 それでも、それでも……。


「五年生になったら、授業でも手芸の時間があるからね、ごめんね残念だけど……」


「いえ、そうですよね」


 でも授業で習うより、もっともっと手芸がしたかったから!!

 たくさん習いたいんです!

 そうは言いたいけど、堀川先生も色々と動いてくれた結果だ。

 茉莉は諦めよう……そう思った。


 その時、なんだか地面も自分もぐんにゃりしたおかしな感覚があった。

 そして茉莉の目の前を、無数の何かが横切った!?


「えっ?」


 ブワーッと横切って、一瞬で消えた。

 ゾクゾクっとしたけれど、男の子が見えたような……あとは化け物、妖怪……?

 まさか……!!

 でも今のは一体……?

 

 びっくりして目を丸くしていると、先生もボーッとしていてハッとなった。

 

「……えっ……? あ、あら……えっと……手芸クラブ……ね。新しく作ることになったから」


「えっ!? だって先生今……」


「そうよね……そうよね? あら? でもね転校生が来ることになってね。その子が手芸クラブに入るから二人になったでしょ。だからクラブができることになったのよ」


「??? そ、そうなんですか」


 堀川先生も自分で言いながら、変な感覚を感じているようだった。


「ま、まぁ良かったわね」


「は、はい……じゃあ転校生が来るんですか?」


「え? まさか……いえ、来るわね。来るのよね。明日? ……え? いえ、そうね」


「先生?」


「いえ、転校生が来るわよ~! 楽しみね!」


「は、はい」


 堀川先生は、最後には『転校生が来る~♪』と歌いながら言ってしまった。

 茉莉は不思議に思いながらも手芸クラブができることと、新しいお友達ができそうな予感にワクワクしたのだった。


「みんな、気を付けて帰りなさいよー」


「はーい、さようならー!!」


 校門で舞う桜のびらを掃除するおじいさんの用務員さんに挨拶して、茉莉は大好きな家へ帰る。

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