再会と先生の秘密
「先生、内村さんはどうして亡くなったんですか。」
黎くんの言葉に僕は一瞬息ができなくなった。
しおりと会ったあの日以来、しばらく黎くんが訪ねてこなくなった。あれだけ頻繁に来ていたものだから、急に姿が見えなくなったことに酷く焦る。もしかして本当に照輝みたいに…と嫌な想像をしてしまう。しおりの言葉を思い出せと言わんばかりに頭をブンブンと振るが、食事中や歯磨き中、絵を描いている時でさえ頭の隅では悪い方向に考えている自分がいる。そんな自分が嫌だ。
(どうして僕は何でもネガティブに考えてしまうんだろう…)
もはや自分はネガティブの塊ではないかと思えてくる。黎くんが来なくなってから2ヶ月後、ピーンポーンと家のチャイムが鳴った。自分のもとを訪れるのはいつも宅配ばかり。それか、もしかしたら…。そのもしかしたらに希望を託し、玄関の黒くて重量感のある扉を開ける。
「黎くんッ!」
そこにはもはや懐かしいともいえる姿があった。2ヶ月合わないだけで、人はこんなにも誰かを恋しく思うことができるのか。自分も人間なんだなと改めて思う。そして同時に、人間であるということはいつか死ぬということだ。
「黎くん…無事だったんだね…。」
「お久しぶりです先生。無事って何ですか。それより、そんな顔してどうしたんです?」
またスイカ持ってきましたよ、と右手に掲げられたスイカがこの前食べたものより大きくて、おかしくて、つい笑ってしまった。2人してしばらく笑い合っていた。
「まったく、しばらく来れないなら先に言っておいておくれよ。」
「すみません。ちょっと調べ物とか色々やってて。」
本当に心配したんだからねと、ソファに座る黎くんを横目に先ほど貰ったスイカをカットする。
「スイカ切ったよ。」
切り分けたスイカを丸皿に移す。
「先生、1つ質問してもいいですか。」
キッチンから顔を上げ、スイカから黎くんに目線を移す。なぜだかまっすぐに自分を見ている。あれ、僕はこの目を知っている。そうだ、しおりと同じ目だ。まるで僕の心と話すみたいに、僕でさえ知らない本当の僕と話しているような目をする。急に不安になる。僕は、君が今から言う事に答えられるだろうか。自分はまた逃げてしまうのではないか。ぐるぐると色々な事を考えていたら、黎くんの薄い口がゆっくりと開いた。
「先生、内村さんはどうして亡くなったんですか。」
僕は固まった。今、スイカを切るための包丁を持っていなかったことは本当に良かったと思う。もしスイカを切っている最中にその質問をされていたら、手を滑らせて指を何本か切ってしまっていたかも。いや、その方が良かったかもしれない。救急車が来てそれどころではなくなるかもしれない。救急車…また脳内であの日のサイレンが鳴る。
「先生?」
「…どうして君が照輝のことを知っているの?」
そう言うと黎くんは、1枚の写真を出した。
それは照輝が倒れた三日前に行ったキャンプで撮ったものだった。
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