井の中の瓶、いずれ大海へ

冬野 向日葵

ガラスびんの冒険

 これはちょっとしたキセキ奇跡のお話。


 転生したらガラスびんでした。もっとも、前世もガラスびんでしたけどね。

 私は一度溶かされ、もう一度型に流し込まれ、無事に転生リサイクルを果たしたようです。もっとも、意識が生まれたのはさっきなので多分の話ではあるんですけど。

 白い液体が詰められていく触感で意識が目覚めました。前世は佃煮のびんだったので、この液に見覚えはありません。ペンキかな? さっきまで透明だった前後のびんたちも、たちまち白くなってコンベアを進んでいきます。

 厚紙で作られたであろう円形のもので頭を閉じられます。そしてそのまま三十人くらいに分けられて部屋ケースへと入り、そのまま車へと乗ります。車に乗ったら揺れが気持ちよくて、すぐ寝てしまいました。


 ゴロゴロと動く台の上で目が覚めました。ずいぶん寝ましたね、乗り換えとかもある長距離ドライブだったのでしょうか。台の上で眺めていると台は小型の部屋へと入り、しばらくして部屋から出ると、別の場所に移動していました。そしてすぐ、台から降ろされました。到着です。

 すぐに人間たちがやってきます。あれ? 人間の割には小さいですね、製造中でしょうか。あ、人間の場合は成長中っていうんでしたね。一人ひとつづつ私たちをつかみ、机の上へと運びます。その上には多くの器の上に入った食品が。この展開は前世で見ました、食事というものですね。ということは私の中に入っているものも食品なのでしょうか。

 この人間たちは集団で食事をとるみたいです。私が担当する人間は早速私に手を掛けました。頭の詰め物を外し、口をつけ、一気に中の液体が流れ出ていきます。なるほど、この液体は経口摂取するんですね。

 私の出番を終え、これで心置きなく転生できる……と思ったその瞬間、彼は私をつかみ、暗い部屋へと閉じ込めてしまいました。


 しばらく揺れた後視界が開けると、また別の場所に移動していました。書物棚や卓上用照明、寝具などのある場所のようです。そしてそこにいたのは先ほどの人間。私をきれいで透明な液体で洗浄すると、なにか薄いものに筆記を始めました。しばらくして手を止めた彼は、筆記したものを巻き取り、私の中へと入れ、詰め物で封じます。

 彼と私は流れる水場へと向かい、私をそっと水場へと放り込みました。もうすっかり夜です。満天の星空の中、揺れる寝具の上、私は眠りにつきました。


 次に目が覚めると、小雨が降っている朝方でした。遠くのほうを見ると、人間たちが集まって袋に瓶や缶を詰めています。流れに身を任せて彼らのほうに近づくと、私も大きな道具でつかまれました。

 しかし、私をつかんだ人間はなぜか首を傾げます。頭の詰め物をはずし、中に入っていたものを取り出しました。彼女はしばらく見た後大きく笑顔になり、別のものを私の中に詰めました。そして再び流れる水のほうへとそっと送り出されました。

 ですが一体なぜ私を袋に入れなかったのでしょう? 私が粗悪品だから? それとも中に毒でも入っていたのでしょうか?


 いろんな可能性を考慮していると、周囲一帯が水の広いところに来ました。いつの間にか晴れていて、日差しが水に差し込みます。あまりの美しさに、意識をなくし,

その後意識が戻ることはありませんでした。

 それでも私は流れていきます。

 でも、どうなったかは知りません。


 これはちょっとしたキセキ軌跡のお話。

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井の中の瓶、いずれ大海へ 冬野 向日葵 @himawari-nozomi

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