第20話

 夏凪の誕生日に聞いた「蓮斗と旅行に行けるロボット」を完成させるべく、俺は一ヶ月前から塾を休み制作していた。ねーちゃんから夏凪はもう長くないと聞いて、三日前からは学校も休んでひたすらに作業した。そんなロボットが今日やっと完成する。そのはずが、どうも一つだけ部品が足りない。ロボットを動かす一番大事ないわば「指令装置」をなくしてしまった。俺は机の下に潜り込んで、落ちていないか必死に探した。そんな俺の元に、突然ねーちゃんから連絡が来た。

   「夏凪が息を引き取った」

 そう聞いた途端、俺は机に頭をぶつけた痛みも気にせず、病院へ走った。


 病室に入ると、いるはずの夏凪は居なくて、シーツも取り外されたベッドだけが残っていた。そこには夏凪の温もりはもう残ってなくて。あぁ、人ってこんなにもすぐに居なくなってしまうんだなと思うと、足の力が抜けて俺はその場にひざまずいた。

「蓮斗…!」

 ぼろぼろに泣いているねーちゃんがやって来て、俺を静かで暗い部屋に案内した。霊安室。白い布に包まれた彼女は、今にも起き上がりそうなくらいきれいで、可愛くて、ふんわりと優しくて。絶対に死んでなんかいないってそう思いたかった。

「よかったら、頭を撫でてあげて」

 夏凪のお母さんの言葉に背中を押され、俺は夏凪に歩み寄った。そっと頬に触れると、冷たくて、張りがなくて、笑ってくれなくて。指先がものすごく寂しくなった。もうここには夏凪は居ないんだなって。

「夏凪…そんな…」

 一週間前にお泊り会をした時はまだ元気だったのに。静かな部屋に俺の泣き声だけが響いた。

 夏凪の葬式は病気のことを知っている親族の方のみで行われたが、夏凪のお母さんのご厚意で俺とねーちゃんも参加出来ることになった。一通り式を終え、火葬を終えて、夏凪の肉体も灰となった。それなのに、心には夏凪の温もりが残っていて、締め付けられるように苦しくなった。

 家に帰ると、暗い俺の部屋には作りかけのロボットが机に堂々と座っている。一番大事な部品がないくせに。動けないくせに。部品さえあればいつでも生き返れてしまう、そんなロボットが憎たらしくて仕方がなかった。俺はそのロボットを机の上から払い落とした。まだ溶接していないロボットはガシャンと強く音を立ててばらばらになる。涙が溢れて、俺はその場にうずくまった。

「なんで…どうして…!」

 俺は泣き叫びながら、散らばった部品を掻き集めた。

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