第18話

 翌日。蓮斗が帰る時間になると、私はまた真っ白な病室に戻された。桃花にメッセージを送ると、私はパソコンを開いた。昨日の出来事を物語に書き起こす。思い出すと口角が上がっていく。昨日のことを書いたら、後は自分が死ぬまでのことを想像で書いていく。ずっと話の最後をどう締めようか考えていたが、昨日『人生ノート』を開いてやっと思いついた。

 最後まで書き切ると、題名を見つめる。「たった100ページの人生」その題名が少し私に似つかわしくなくて、少しだけ書き加えた。

「夏凪ーおはよー」

 ちょうどその頃桃花がやってきた。桃花は私のニヤケ顔を覗き込む。

「あれあれ、夏凪さん、嬉しそうですね」

「蓮斗と、キスしちゃって」

「それ、蓮斗も騒いでた。ほんとに君ら初心だよねぇ。付き合って四年で、やっとファーストキス」

「もう最初で最後だけどね」

 少し日が陰る。桃花は何も言わずに便箋と封筒を出した。

「これ、頼まれてたやつ。蓮斗にでも書くの?」

「うん、だけど、自分じゃ書けないから、桃花に代筆お願いしたくて」

「わかった、書くよ」

 それから、私は思うことを全部伝えた。蓮斗の顔を思い浮かべて、言いたいこと、伝えたいこと全部。真っ白な天井に思い出を並べる私の横で、桃花はずっと嗚咽を漏らしていた。

「これで、もう、十分かな」

「わかった」と言って桃花は便箋を封筒に仕舞おうとする。

「あ、ちょっとまって、便箋と鉛筆貸してほしい」

 桃花にもう一枚便箋をもらって、必死に鉛筆を走らせた。力加減を間違えて何度も芯を折ってしまったけれど、桃花は何度も削り直してくれた。やっと、伝えたいことを書き切ったら、桃花に封筒に入れてもらった。

「その手紙は、私が死んだら、蓮斗に渡して」

「うん、わかった」

「それと、もう一つお願いしたくて」

 桃花は「うん?」と首を傾げる。

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