第17話

 その後、蓮斗はタネがバレバレのマジックを見せてくれたり、家から持ってきたという大きなプロジェクターで映画を見せてくれたり。あまり食欲のない私にスムージーを作ってきてくれたり、とにかくたくさんお喋りしたり。もっと元気だったら、きっともっと楽しくてもっと笑えたんだろうなって思ったけど、それでも十分に楽しかった。これが最後の思い出になったとしても、全然悔しくなんかない。

 気がつけば日が暮れて、星空は黒い画用紙にラメをふりかけたように輝いていた。優雅に時を刻む時計は八時を示している。

「面会時間、そろそろ終わりじゃない?」

「今日は一晩中一緒にいられる。お泊り会だから」

 蓮斗はスーツを脱ぎだして、パジャマに着替えていた。「やっぱパジャマのが落ち着くね」と笑顔を見せる。少しダボッとしたチェック柄のパジャマは、急に彼の容姿を幼くさせる。

 私が少しベッドの端に動くと、蓮斗はベッドに腰掛ける。

「すごいふかふかだねこのベッド」

「蓮斗もここで寝る?」

「一緒に寝るなんて、そんな」

 蓮斗の顔がみるみる赤くなる。

「俺は床で寝るよ。寝相悪いから、一緒に寝たら夏凪が下敷きになる」

「変なこと考えた?」

「か、考えてないよ」

 蓮斗の耳はもう破裂しそうなほど真っ赤だった。私はそんな様子に微笑んで「ほんとに?」というように意地悪に首を傾げてみる。

「…考えないわけ、ないよ…」

 目を逸らし頭を搔く蓮斗。本当はみんながするように、手を繋ぐのも、ハグをするのも、大人なことも、もっともっとやりたいけど、我慢させてしまっているんだろうな。

「私が元気だったら良かったんだけどね」

 蓮斗は俯いたまま返事を返さない。照れ隠しなのか、返答を考えているのか、顔が見えないから何を思っているかわからない。

「あ、えっと、大丈夫?」

 私が顔を覗き込むと、しっかり目が合う。秒針が突然ゆっくりと動いて、瞬きもスローに見える。蓮斗の大きな手が優しく私の頬を包んで、私はそっと目を閉じる。唇と唇が触れる。柔らかくて温かい。唇が離れて目を開く。すぐ目の前に頬を赤らめた蓮斗がいる。見つめ合っているのが恥ずかしくなって、二人共思わず吹き出す。それでも目を逸らすことはしなかった。静かな病室は、二人の照れ笑いで賑わっていた。

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