第16話

 月日はあっという間に過ぎ去り、気付けば暑さは消え、窓の直ぐ側にある銀杏の木が徐々に色付き始めた。十一月。闘病してもう一年半が経った。最近は寝てばかりで体を起こすことも億劫だった。目はいつも半開きで頭がぼんやりとしている。一日中、寝落ちする直前のような状態だった。

「夏凪、おはよう」

 今日の蓮斗は何やら大きな荷物を持ってやってきた。

「夏凪、今日はね、素敵なお泊り会をするよ」

 蓮斗は私の手を握りながら、耳元でゆっくりと話してくれる。おかげで眠たくてもしっかりと声が聞こえる。

「車椅子乗れる? ベッドごと移動も出来るけど」

「車椅子で、大丈夫」

 私は重い体をゆっくりと起こした。蓮斗はもう私の状態をわかっているようで、軽く私の体を持ち上げ、車椅子に乗せてくれた。「どこに行くの?」と聞くと「まだ内緒」と下手なウインクをする蓮斗。ゆっくり車椅子が押され、エレベーターで四階まで行く。長い廊下の向こう側には大きな扉があって、「Private room」と粋な文字が飾られている。

「今日の宿泊先はここだよ」

 そう言って蓮斗が扉を開くと、部屋の中央には大きなベッドがあって、床には絨毯が敷かれていた。

「こんなところがあるなんて、知らなかった」

「ここ、有名人が入院する用の秘密の病室なんだって。豪華な部屋でお泊り会したいから、先生に頼み込んで使わせてもらうことになった」

 蓮斗はまた私をさっと持ち上げて、ふっかふかのベッドに寝かせてくれた。寝返りも打てない私一人で寝るには大きすぎるベッドだった。

「夏凪、ちょっと寝て待ってて」

 蓮斗は私にそっと布団をかけると、大きな荷物を抱えて部屋を出ていった。

 大きな窓を見ると、冬晴れの空が広がっていた。色水をこぼしてしまったように、一面きれいな水色だった。大空を見るといつもここから飛び出したくなる。空を自由に飛び回って、光を浴びて、風を受けて。雲の上で優雅にお昼寝でもしてみたいな。たまに地上へ降りてきて、桃花や蓮斗を脅かしてやるんだ。二人ならきっと私だってわかってくれるかな。そんなことを考えていると、扉が開いて、スーツを着た蓮斗がやってきた。まだ高校生の彼がスーツを着るのは少々違和感がある。でも足が長くてスタイルも良いから、よく似合っている。

「今日は俺がホテルマンになって、たくさん夏凪をもてなします!」

「スーツ、似合ってる」

「ありがと、今日は楽しんでね」

 私の頭をそっと撫でて、彼はまた荷物をまさぐった。

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