第15話

 日が落ちてきて薄暗くなった廊下に、私たちの声が響き渡る。中庭につけば、その声は星空に溶けていった。真夏の夜とはいえ、外は涼しいそよ風が吹き渡っている。

「よし、じゃあこれ持って」

 不器用に破かれたビニール袋から、蓮斗は一本の花火を渡す。

「これ何?」と聞いても「やってみてのお楽しみ」と彼はチャッカマンで火をつけた。その途端、花火の先から勢いよく光が飛び出し、私は驚いて思わず投げ捨てる。

「ちょっと、なんで捨てちゃうの」

 蓮斗は笑いながら急いで花火に水をかけた。

「突然だったからびっくりして」

「花火ってこういうもんだから。やったことないの?」

「あるよ! びっくりしたら手の力抜けちゃうの!」

 必死な言い訳にまたははっと笑って、蓮斗は車椅子の横に座った。花火を一本、また私に持たせると私の手の上にそっと左手を被せ、器用に右手で火をつけた。先端からきらきらと光がこぼれ落ちる。もったいないからと拾い上げたくなるほど綺麗で美しくて儚い。

「きれいだね」私がそう言うと、「君の方がきれいだよ」なんてキザな答えが返ってくる。「なにそれ」って笑うと「ちょっと言ってみたかった」って照れ笑いが花火の明かりに隠れる。

 一通り花火をすると、線香花火が二本だけ残った。

「線香花火はそんなびっくりしないよね」

「うん、自分で出来る」

「じゃあ、どっちが長く続くか勝負しよ」

 蓮斗は自分の線香花火に火をつけて、その後に私のにもつけてくれた。ぱちぱちと小さい火花が力強く散っていく。

「あ、落ちちゃった」

 私の隣で蓮斗は寂しそうな顔をする。「俺、線香花火下手かも」

 苦笑いする蓮斗の声が消えていく。この線香花火が最後の灯火。少しずつ弱くなって、静かに落ちる。線香花火が落ちるのと同時に私の目から涙が一粒こぼれた。

「夏凪? 泣いてるの?」

「ごめん、なんか、寂しくなっちゃって」

 情けなく泣いている私に蓮斗は「いいよ」と呟くと、私の右手をそっと左手で包み込んだ。

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