第13話
また一ヶ月が経って七月の半ばになった。夏の暑さが猛威を奮っている。外では蝉が大合唱している。先日私は二十歳の誕生日を迎えた。だけど病気でお酒も飲めないし、タバコなんて吸うつもりないから二十歳になったからなんだって感じである。
コンコンと音がして「はーい」と返事を返す。扉が開いて蓮斗が顔を覗かせる。
「おはよ、夏凪。調子はどう?」
「平気だよ。中入っていいのに、なんでそこにいるの?」
「心の準備いい?」
「いいよ」と言うと蓮斗は「じゃん!」と手を広げて立った。彼は「I LOVE YOU」と書かれたTシャツを着ていた。
「何そのTシャツ、ここまで着てきたの?」
私が大笑いすると蓮斗は恥ずかしそうに小さく頷く。
「で、でもまだこんなもんじゃないから」
彼が後ろを向くと、私の笑いは驚きに変わった。背面には今まで私たちが撮ってきた思い出の写真がきれいに並べられていた。このTシャツは彼が作ったオリジナルTシャツだった。
「え、すごい。作ったの?」
「すごいでしょ、ほら見て。センター飾ってる写真、変顔した時の」
「ねぇなんでこれが真ん中なの」
「俺のお気に入り写真だから」
蓮斗は紙袋からもう一枚Tシャツを取り出して私に渡す。
「これ、夏凪のやつ。今着れる?」
「あ、今? じゃあ着るか」
蓮斗は私が脱ぐと思ったのか、顔を手で隠したが、指の間からしっかりこちらを見ている。「男の子だな」と思いながら私はパジャマの上にTシャツを羽織る。蓮斗はそれを見て慌てて顔を隠す。
「今、見ようとしてたでしょ」
「いや、何も見てないよ」
「耳真っ赤だよ、わかりやすい」
蓮斗は私にからかわれてちょっとむすっとしたけど、すぐに顔をあげて「似合ってる」と笑った。
「ちょっと遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとう」
「ありがと。おかげさまで二十歳になりました」
「待って、プレゼント、これだけじゃないの」
蓮斗はポケットから小さなメモ帳とペンを取り出した。
「今度、夏凪のためにロボット作ろうと思って」
「ロボット作れるの!?」
「夏凪のために頑張る。どんなのがいい?」
「えぇ突然言われても難しいな」
「じゃあさ、なんかやりたいけど出来ないこととかない? ロボットならなんでも叶えられるから」
「うーん、じゃあ」
私はそっと空を見た。
「蓮斗とたくさん旅行に行きたいな。世界中駆け回りたかった」
「その夢、俺が叶えるね、絶対」
「楽しみに待ってるね」
私は蓮斗ににっこりと微笑んだ。
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