第12話

 蓮斗との再会から二ヶ月。蓮斗も桃花も忙しい中で毎週欠かさず来てくれて、病室は以前のような明るい空気を取り戻していた。今日はついに六月十三日。蓮斗の誕生日だ。私と桃花はこの日のためにサプライズの計画を立てた。

「夏凪? 入っても大丈夫?」

 私は寝ているフリをしているので、蓮斗の声に返答しない。ちなみに桃花は、空きベッドにこっそり隠れている。

「夏凪? 大丈夫?」

 返事が無くて心配になったのか、蓮斗はがらりとドアを開けて、私のとこへ駆け寄った。

「あ、びびったぁ、寝てるだけか」

 独り言を呟く蓮斗の様子を、薄っすら目を開けて眺める。布団に隠された手にはクラッカーを持っている。

「かわいい」

 蓮斗はそう呟いて、私の頬に触れた。私はニヤけるのを必死に抑えようと口元を震わす。蓮斗の眼差しにそろそろ耐えられなくなって、私は起き上がって「わぁ!」と脅かした。その全く同じタイミングで、蓮斗は私に顔を近づけた。そのせいで、おでこが勢いよくぶつかってしまった。

「いったぁ…」

 私は咄嗟におでこを押さえる。そんな中、状況を知らない桃花はパン!とクラッカーを鳴らした。

「蓮斗、お誕生日おめでとう!! ってあれ? どしたの?」

「夏凪が突然起き上がるから、おでこがぶつかって」

「いてて」と蓮斗もおでこをさする。

「蓮斗が顔を近づけてくるとは思わなかったんだもん」

「いや、だって、あまりにも可愛かったから…」

 段々と小声になる蓮斗の耳は真っ赤だった。

「まぁ二人は運命の赤い糸で結ばれちゃってるからね〜」 

 桃花は小指を立てて私達を囃し立てる。

「もういいから早くケーキ食べよ!」

 私は桃花の手を急かす。桃花は「はいはい」と紙袋からショートケーキを取り出す。三人で食べるには大きすぎるほど立派なケーキだ。

「めっちゃ美味しそう。俺、昼ご飯食べてないから腹減ってたんだよ」

 蓮斗は獲物を狙うライオンのようにケーキを眺めていた。「じゃあ、食べますか」と桃花が言うと、蓮斗は「いただきます!」と元気に言った。私と桃花も遅れて手を合わすと、三人でケーキに飛びついた。男子高校生の勢いはすごかったが、甘党として私も負けじと食べた。

 最後の一口を蓮斗が食べると、私はベッド横の引き出しから小さな紙袋を出した。

「これ、誕生日プレゼント」

「え! まじ! ありがとう」

 蓮斗は口についたクリームを拭くと、私のプレゼントを覗き込んだ。

「開けていい?」と目を輝かせた彼に私はにっこりと微笑む。蓮斗はクリスマスの朝の子供のようにプレゼントを開けた。中から出てきたのは銀色のハートのネックレスだ。私は自分の胸元に隠れたネックレスを取り出した。

「私とお揃いのネックレス」

「まじ!? ペアネックレス!?」

 蓮斗は昔からお揃いが好きだった。

「ずっとつけるわ」と早速蓮斗はネックレスをつけようとしたが、つけられず「ねーちゃん、これつけて」と桃花に上目遣いで言った。その様子に私と桃花は目を合わせて笑う。

「めっちゃいい、夏凪とずっと一緒な感じ」

 にこにことネックレスを眺める蓮斗を見て、私もそっとネックレスを握った。

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