第11話

 翌朝。目を覚ますと私はすぐにパソコンを開いた。窓から差し入る光が、画面に反射して目を細める。私がアプリを開くと、真っ白なページが現れた。そこに、「たった100ページの人生」と題名を打つ。もう指先は不器用なので、1キーずつしっかりと打ち込む。昨晩、寝る前に一日のことを振り返っていたら、ふと自分の人生で小説を書きたくなった。蓮斗との出会い、別れ、病気になってへこんでるところでまた再会。この運命のような出会いを日記のように書き残したかった。

「夏凪ー? 入るよー?」

 コンコンというノック音と共に、今日も元気な桃花の声が聞こえてくる。「どうぞ」と言うと桃花はバーンと扉を開けて両手両足を大きく広げて大胆に登場した。

「おっはよーございまーす!」

「おはよ」

 私はその元気っぷりに半分呆れながらもにこにこと挨拶を返した。

「ごめんねー蓮斗のやつ暇じゃなくて」

「いいよ、仕方ないよ」

 蓮斗はアメリカから帰ってきたとはいえ、まだ高校生なので平日は学校と部活に行っている。土曜日は工学を学ぶための塾のようなところに行っているらしいので、毎週日曜日にしか会うことが出来ない。代わりに平日と土曜日は桃花が毎日来てくれることになった。

「桃花も無理に来なくていいからね、大学もバイトもあるだろうし」

「大学の授業、午後にしか行かないの。うちの大学緩くて必要な単位数少ないし。バイトはいつも夜だから」

 そう言いながら桃花は私の着替えを手際よく引き出しに仕舞う。母の仕事が忙しい時は、いつも桃花が必要なものを持ってきてくれる。

「上の段にパジャマ、下の段に下着入ってるから」

「うん、ありがと」

 桃花がよっこらせと椅子に座るのを見届けると、私は再びパソコンに目を移した。桃花はパソコンを覗き込む。

「それ、何書いてるの?」

「小説」と私が言うと桃花は目を丸くした。

「小説? 夏凪、そんなの書けたっけ」

「本は昔から好きだったよ。どの本も表紙が輝いて見えるの」

「私は活字は苦手だな〜」

 桃花は目をこすりながら机にもたれ掛かった。「桃花?」と呼んでも返事は返ってこない。メッセージの返信速度と入眠速度だけは速い桃花。桃花の寝顔を覗き込むと、私はまた小説を書き始めた。

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