第10話

 すると、病室は一面ピンク色に染まっていた。目の前には大きな桜の千切り絵がある。その横で、蓮斗は一生懸命小さなピンクの和紙をばら撒いている。

「ね! 桜咲いたでしょ!」

「うん、すごい。これ蓮斗が作ったの?」

「そう! これはねーちゃんに手伝ってもらってないよ、自分で作った」

「ありがとう、すごいきれい」

 私が目の前の大きな桜に見惚れていると、手のひらにちらちらと花びらが舞い降りた。その花びらは、不器用に、だけど丁寧に花びらを形どっていた。

「ちゃんと花びらの形してる」

 私が感心していると、一通り撒き終えた蓮斗はベッド横の椅子に座った。

「それ、一番頑張った」

「めっちゃ大変だったんじゃない?」

「もうゲシュタルト崩壊起きてた」

「そうだよね」

 私がまだ桜に見惚れている横で、蓮斗はもぐもぐサンドイッチを食べていた。「それじゃ花よりサンドイッチじゃん」と私がツッコむと、「早く食べないと無くなるよー」と言われたので、私も慌てて頬張った。ハムスターのように膨らんだ頬に二人共笑う。今まで食べた中で一番のたまごサンドだった。二人で見つめあってたまごサンドを頬張る。この瞬間がずっと続けばいいのに、なんてベタなことを考える。私はずっと楽しそうな蓮斗の横顔を見ていた。結局、私は「花より蓮斗」だった。

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