第7話

 今日はなぜだかよく眠れて、目を覚ましたらお昼になっていた。スマホの時計が12:48を示していた。そういえば、蓮斗からの連絡がしばらく来ていない。「教授に怒られて大変」という旨の連絡以降、履歴が止まっていた。忙しくしているということはきっと、実力を認められて向こうで活躍できているということだろう。嬉しいけど少し寂しかった。メッセージの履歴を遡ると、出会ったばかりのよそよそしい会話が出てきた。

[はじめまして、坂野夏凪です]

[米崎蓮斗です。よろしくお願いします]

 蓮斗との出会いは桃花がきっかけだった。好きな歌手が一緒で、それを知った桃花が、私に蓮斗の連絡先をくれたのだ。だから、桃花の話で時折聞いてはいたものの、最初はネット上での友達であった。初めて会ったのは私が高校ニ年生、蓮斗が中学三年生の時。蓮斗がライブチケットを当ててくれて、二人でライブに行った。そのライブの帰り道。

「ライブはやっぱ最高だよね!」

 はしゃぐ私の隣で、蓮斗はずっと俯いていた。

「あー…ライブって終わっちゃうと、何とも言えない寂しさあるよね、余韻みたいな」

 ライブ中はずっと一緒に騒いでいた蓮斗が、突然静かになったもんだから、私は場を取り持つのに必死だった。

「だ、大丈夫、? 体調悪ければ、」

「あの、夏凪さん」

 ずっと俯いていた彼は突然立ち止まって顔を上げた。

「俺、夏凪さんが好きです」

 ライブ帰りの人々の賑わいの中、私たちだけがそっと静寂に包まれたように、雑音も何も聞こえなくなって、ただ彼の優しい声だけが聞こえた。

「あ、あの、俺で良ければ、付き合ってください…!」

 今日初めて会ったけど、蓮斗は私に恋をした。でもそれは、私も同じだった。

「私で良ければ、よろしくお願いします!」

 その後のことはよく覚えていない。二人で手を繋いで帰った、その手のひらの温もりと、彼の幸せそうな笑顔だけはよく覚えている。

 メッセージを見返すと、蓮斗との思い出が鮮明に脳裏に蘇る。

[もう4:30だけど(笑)おやすみ]

[おやすみ〜(笑)]

 これは受験期にも関わらず、夜中に五時間も通話してしまった日のメッセージだ。次の日の授業は当然まともに起きていられなかった。

 懐かしい記憶を次々に辿っていると、突然病室のドアが開いた。

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