第4話
治療を終えてから三ヶ月。有頂天だった私は再び地獄へ突き落とされた。
「夏凪、右目が…」
お母さんにそう言われて鏡を見ると、右目の黒目が鼻の方へ寄っていた。不安になったお母さんは私を病院に連れて行った。
「グリオーマが再燃しました」
「それって…」
「再発です。再び脳幹部に癌細胞が見られます」
MRIの画像を見せられ、難しい話をされた。だけど、余命は一年だと言うことだけがはっきりとわかった
担当医の先生とお母さんで話し合った結果、仕事で忙しいお母さんが私の面倒を見ることは難しいので、私は入院することになった。同じ部屋にはまなみちゃん(まなちゃん)とたくやくん(やーくん)という闘病仲間がいた。それぞれ七歳と四歳、と私よりもずっと幼いながら、私と同じ病気と闘っていた。
「こんにちは!」
人懐っこくて元気な二人は、私が部屋に入るとすぐに明るい挨拶をくれた。二人共私が入院する頃には自由に歩くことも難しい状況だったが、たくさん笑ってくれたし、色々な話をした。
「まなちゃんね、病気治ったら、学校行く! 水色のランドセルなんだよ」
「水色なんだ、いいね。おねーちゃんも水色だったよ」
「やーくんはね、うんとね、ありしゃんになる!」
「えーありさん?」
「ありしゃん力持ちなんだよ!」
どんどん体が重たくなっていく中で、二人の声は明るく響いて、たくさんの元気をもらった。入院生活がこんなに楽しい時間になるとは思っていなかった。
だけど、そんな二人の声は徐々に聞こえなくなっていった。代わりに聞こえてくるのは、親御さんたちの涙声だった。
私が入院して三ヶ月が経ち、冬の寒さが背筋をなぞる頃。最期は自宅で看取りたいという親御さんの希望で2人はそれぞれの家に帰っていった。まなちゃんは癌発覚から半年、やーくんはわずか四ヶ月だったという。もう二人の元気な姿は見られなくなってしまった。だけど、病院に顔を出さないだけで、二人共元気に過ごしているのではないかと、そう思いたかった。
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