第3話

 一年前を思い出す中、ふとスマホを見つめると、蓮斗からのメッセージが届いていた。

[おはよう! 昨日も教授に怒られっぱなしで大変だった…(泣)夏凪の明日が幸せなものになりますように!]

 彼はまだ高校三年生の年だけど、ロボット工学に強く憧れを持ち、独学でアメリカに技術留学をしている。そんな彼は私の癌のことを知らない。


 彼の留学の話を聞いたのは、私の癌が見つかる直前だった。

「ねえ夏凪、大事な話があるんだけど、」

 この日は私の受験お疲れ様の会で、彼がご飯に誘ってくれた日だった。

「大事な話って?」

「俺、アメリカに留学しようと思う」

「ロボット関連?」

「そう、やっとアメリカの教授に認められて、研究室に呼んでもらえることになったんだ。学生のうちにこんな経験が出来るなんてすごすぎだよまじで」

 目を輝かせて必死に話す彼を見るひと時は本当に幸せだった。

「じゃあ夢を叶える第一歩だね」

 蓮斗の父は大手ロボット企業の社長兼研究所長であった。そんな父の背中を見て、「人を笑顔にするロボットを作る」というのが蓮斗の夢だった。

「夏凪が不安にならないように、俺、毎日メール送る。暇があったら電話もする」

 自慢げに言う彼自身が、一番寂しくてメールしたいんだろうな、なんて思ったけど、私はただ「ありがと」と返した。

 癌が発覚しても、私は彼には伝えなかった。変な心配をかけたくなかった。蓮斗のことだから、日本にいて夏凪の看病する、とか言い出しそうだし。治療のお陰で調子が良かった私は、空港で彼をお見送りすることもできた。彼は留学に心を躍らせながら、それでも私との別れが寂しいとずっと私の二の腕をつまんでいた。

「ほら、もう時間でしょ? 行ってきなよ」

「あとちょっと、あと二分」

「二の腕つままれるの地味に痛いの、ほら行っておいで」

 私は彼の手を払うと、にっこりと笑って、寂しさや心細さを必死に隠した。

「……じゃあ、行ってくる。連絡するから、待っててね、絶対するから〜!」

 私の方を見て手を振りながら走る彼。よそ見するもんだから、柱に激突して、私にてへって笑顔をこぼす。その時までは私も笑っていられた。

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