第9話 不法侵入

「……んん?」

 翌朝、俺はなんか違和感があってそれで目覚めた。

 ゆっくり目を開けると、ベッドの端に

 そして俺の背後…………!?

 瞬間、俺の意識はすぐに覚醒し、急いで後ろを振り返る───


「んごおぉぉー! ぐうぅぅぅ~!」


「……」

 アホトカゲが、なぜか俺のベッドの大部分を占領して大いびきをかきながら大の字で寝ていた。

 このクソトカゲ……なんで俺のベッドをさも自分のベッドのようにして寝てんだよ! 宿はどうした宿は!

 というか、この大いびきの中、俺は今まで爆睡していたのか……。

 昨日は色々あって、確かに肉体的にも精神的にも疲れていたけど、にしたって……。

「ぐごごごおぉー……」

「……!」

 このいびきもこいつもうっとうしくなってきたので、俺は自分のベッドから起き上がり、マットレスとベッドの間に挟み込んであるシーツを四隅全部引き抜く。

 もちろん慎重にだ。このトカゲ野郎を起こさないように、音を立てずに……。

 そして爆睡トカゲが起きる気配のないまま準備完了。あとは最後の仕上げを残すのみだ。

「ごがががあぁ~……!」

 見てろよ不法侵入トカゲ! 今に叩き起してやる!

 俺はシーツの端を両手で持ち、それを思いっきり引っ張った。

「起きやがれこのスカタントカゲー!」

 俺がシーツを引っ張ったことにより、ベッド占領トカゲの体は転がり、そのままベッドから落ちた。

「ぐおぉ……な、なにごとだ……!」

 腰を強打したのか、自分の腰に触れながらのそのそと立ち上がった。

「おい、てめぇ……!」

「なんじゃ小童。貴様なぜ朝っぱらからそんなにイライラしておるのだ?」

 こいつ、悪びれもしないで……!

「お前のせいだろうが! なんでここで寝てやがる!」

「相変わらず細かいことを気にする小童であるな。やれやれ……」

 なぜか俺が悪いように言って、肩を竦めながらここで寝ることとなった経緯を話し始めた。

 というかもう腰が治ったのか!? これも超速再生ってスキルのおかげか。

「さすがの我も、満腹と酔いには勝てなくてな。寝床を探しておったらちょうど近くに小童の気配を感じたのでな。男のベッドで寝るのは癪だったのだが、野宿よりはマシと思って、このベッドを使ってやったのだ」

「一ミリも共感できんぞ! なんだその理由! そんでなんでそんな上から目線なんだよ!」

 いちいち腹立つなこのトカゲ!

「神竜たるこの我が使ったベッドだぞ。ありがたく家宝にするがよい」

「……しんりゅ~?」

「なんじゃ小童。貴様、疑っておるのか?」

「当たり前だろ! どこにお前みたいなアホ全開な神竜がいるか!」

「アホとはなんじゃ貴様! どこからどう見ても我は神竜だろうよ」

「酒で酔いつぶれてるし、人間のリリを『たん』付けしてるし、アホな言動ばっかりだし、お前と出会って神竜っぽいところを一度も見てないのだが?」

 それでこいつを神竜だと信じろと言われても絶対に無理だろ。

「ならばあとで古文書でも見るがいい。この村にも蔵書のひとつやふたつあるであろう。昨日、我のドラゴンフォームを見ておるし、古文書を見れば我が神竜だと信じるだろうて」

「うん。信じない」

「なんだと貴様!」

「確かにこの村にも古文書はあるけど、それを見てもお前が神竜ってのは信じれないだろ。バカだし。他人の空似……他竜の空似かなんかだろ」

 口調だけはそれっぽいけど、どうせそう見せるために使ってるだけだろ。

「というか神竜ならワープ魔法使えたりしないのか?」

「舐めるな小童。無論使えるに決まっておる」

 なんでこいつはドヤ顔なんだ……?

 人間のリリができるのだから、もしもこいつが一億歩譲って神竜だとするのならワープ魔法くらい使えて当然だと思うのだが……。

「ならなんでワープ魔法を使って宿に戻らなかったんだよ?」

「魔法を使うと吐きそうだったのでな」

「……やっぱこいつはバカだ」

 俺は、昨日の吐き気を思い出して口に手を当てているアホトカゲを見て確信した。

 やっぱりこいつは神竜ではないと。

 神竜だとしてもアホを司る神竜だな。

「……それに」

「ん?」

 なんだ? 吐き気を思い出していたアホトカゲが纏っている空気が変わった。

 突然真面目な顔になりやがって……一体なんなんだ?

「昨夜、あの宿には戻る気はなかった。そんな野暮なマネは出来ぬわ」

「な、なんだよそれ? や、野暮って───」

『あー、あー……!』

「!?」

 な、なんだー? 突然外から村長の声が……!

 しかも村中に聞こえるくらい大きな声で……!?

「な、なんだこれ!? どうなってやがる?」

「ふむ……おそらくリリたんの魔法だな」

「魔法? 魔法ってこんなこともできるのか!?」

『おお! 本当に声が響いておる! すごいのぉ魔法というのは』

 村長もなんだかすげー感動してるっぽいし。

「風魔法であのジジイの声を村中に拡散しておるのよ」

「す、すげーな。魔法って……」

『モストイ村に住む皆よ。朝からですまないが、大事な知らせがあるから広場に集まってくれ』

 それだけ言うと、村長の声は聞こえなくなった。

 それにしてもなんだ? 村中の人を集めるなんて。

 そんなこと、ここ数年なかった。リリが旅に出るのを見送った時以来じゃないのか?

「ほれ小童。ほうけていないで貴様も広場に行け」

「お、おぉ……」

 なにがなんだかわからないまま、アホトカゲに促され、俺は簡単な身支度と顔を洗ってから、既に父さんと母さんがいない家を出た。

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