第8話 勇者の気持ち

 突然の勇者様の登場に、話をしていた村の女性たちは色めき立つ。

「あらレスター。パーティーは楽しんでる?」

「もちろん」

 レスターは子どものような笑顔を見せた。

 それを見た女性たちはみんなキャーキャー言ってる。

 私と同年代の人はほとんどいないけど、この端正な顔立ちに世界を救った勇者様……みんなの反応も無理ないわね。

「本当? こんな辺鄙へんぴな村のお祭りじゃ、都会や王都とは比べ物にならないでしょ?」

「そんなことないよ。村の人たちは気さくでいい人たちばかりだし、食べ物も全部おいしい。とても居心地がいい落ち着く場所だよ」

 そう言って笑うと、みんなレスターの笑顔に顔を染め上げていた。

 私はもう見慣れちゃったけど……やっぱり、かっこいいのよねレスターって。

 こういうことは何度もあった。町や村に行くとそこに住む人たちが私たちを……レスターを囲む。レスターは女性や子どもによく囲まれていてすごくチヤホヤされていた。

 私も……まぁ、男たちに囲まれたことはあるし、長く滞在していた町の男性に言い寄られたことも……あるにはあった。もちろん断ったけど。

 レスターは勇者の前に男。あんなに大勢の女性たちに囲まれて、その人たちの中から一夜をふたりきりで過ごした……なんてことは一回だってなかった。

 夜は絶対に同じ宿、そして旅の仲間の……今や聖騎士のクラースと一緒の部屋で寝ていた。

 クラースもまあまあのイケメンで、彼は女の人の元へ行きたがってたけど、それをレスターが止めていた。

「皆さん。申しわけないのですが、少しリリをお借りしてもよろしいですか?」

「え、ええ! どうぞどうぞ!」

「わたしたちはまた明日にでも話すので!」

「ほらリリ! 行きなさいって」

「ちょっ……!」

 私は背中を押され、レスターのそばで止まる。

 レスターの顔を見上げると、彼は優しい笑みを見せていた。

 それは最近……旅の終盤から私に見せるようになった笑顔で───

「か、かっこいい……」

「わたしたちにはあんな顔見せないのに……」

「もしかしてレスター様って……」

「あぁ……」

 そんなレスターの笑顔を見たみんなは言いたいことを言ってるし、中には気絶しちゃう人までいる。

 この笑みは多分……本当に私にしか見せていないもの。

 同じく旅の仲間……大賢者ミルナにも向けたことがない笑顔。


 そう……レスターは私に好意を抱いている。


 それは誰の目から見ても明らかだし、それとなく想いを告げられたことも、あったりする。

 多分、今からふたりになって……。

「ありがとうございます皆さん。それじゃあリリ、行こう」

「……ええ」

 私とレスターはふたりで人のいない方へと移動し、そこから村から少し離れた場所まで移動し、人気がない場所まで移動して、も含めて、ふたりだけで会話をした。

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