第10話 勇者からの発表
俺が広場に向かうと、既にみんな集まっていた。
村に住む人たちだけじゃなく、昨日のパーティーに参加した人たちまでもだ。
「おお、アロン。やっと来たか」
近くにいた父さんに声をかけられた。
「遅かったな。何してたんだ?」
「……うちに不法侵入していたトカゲとちょっとね」
「トカゲ?」
父さんはトカゲが自称神竜のアホとは思っていないようだ。
……とりあえずあいつのことは考えないようにしよう。頭が痛くなってくる。
「ところで父さん。今からここでなにがあるんだ?」
「さあ? 俺も知らん。だが……あの台に村長がいるということは、何かしらの知らせがあるんだろうな」
村長があそこにいるってことは、村民になにかを伝えようとしている時が大半だが、ここ数年村のみんなを集めることはなかったのに……一体何を言うつもりなんだ?
「今日もいい天気だな。村長の頭も光ってるし」
「アロン……それは村長の頭を見て言うもんじゃないと思うぞ。もっと上を見て言うもんだ」
「空を見上げると眩しいからな」
「村長の頭は?」
「太陽よりマシ」
「なにくだらない話をしてるのよ」
「あ、母さん」
俺が来た時にはいなかった母さんもやってきた。
「あ、そうだ母さん」
「なに?」
「母さんがあのアホトカゲを家に招いたのか?」
もしかしたら不法侵入は俺の部屋だけかと思い母さんに聞いてみた。
自称神竜を名乗っているのなら、リリたちと一緒に旅をしたのなら、人間の常識も頭に入ってるだろうしな。
「アホトカゲ?」
どうやらアホトカゲが誰なのかわかっていないようだ。
「アイツだよほら……えっと……アヴェムとかいう……」
トカゲトカゲ言っているから、アイツの名前を捻り出すのにちょっと時間がかかってしまった。
「ああ、あのドラゴンだった人?」
「そうそう」
「いいえ、知らないわよ」
「……あのクソトカゲ。マジで住居不法侵入じゃないか!」
神竜ならそれくらいの常識わきまえておけよ!
「あー……うおっほん!」
「!」
村長がわざとらしい大きな咳払いをした。ああして俺たちの注目を集めて何かを喋りだすんだよな。
「皆、朝の
村のみんなから「楽しかったよ!」、「またやってくれ!」、「頭痛てぇぞ!」などの声が聞こえる。
俺もまぁ、楽しめたと思う。
「ふむ、それは良かった。実はの、またあの規模の宴を開くほどの喜ばしい知らせをこれから皆に伝えようと思って、ここに皆を集めたのじゃ」
「喜ばしい……知らせ?」
リリたちが魔王を倒した……世界が救われたのと同程度の朗報ってなんだ?
周りに耳を澄ますと、俺のように考える声や、単純にまた祭りができることを喜んだりと様々だ。
「静粛に。皆、静粛に頼むぞ」
俺たち全員が村長を見る。いよいよその喜ばしい知らせとやらを俺たちに伝えるんだ……。
「あー……その前にひとつ、皆に言わなければならないことがある」
「……もったいつけるな村長」
早く言ってしまえばいいのに。
「……これはまだ、世界のどこにも出ていない情報ゆえ、まだこの村の中だけに留めておいてほしいのじゃ。特に行商人や、昨夜の宴に参加した、この村の住人でない皆は、
口止め……俺たちや村の外の人たちにかん口令を敷くなんて。よほど重要なことなのは間違いないが、朗報なんだろ? なんでそんなに隠さなければならないんだ?
「皆、それを踏まえた上で聞いていただきたい。ではレスター殿、あとは頼みますぞ」
「はい」
……え? 勇者?
ゆっくりと登壇する勇者……しかも、その後ろにはリリもいるじゃないか!
リリの着ている服は、昨日帰ってきた時の旅の服ではなく、私服だった。
ふたりが揃って……一体何を言うつもりなんだ?
わからないことだらけだが、ひとつ言えるのは朗報を俺たちに伝えるのは勇者だということ。
だけど、なんでそこにリリが必要なんだ? 勇者パーティだから? それともなにか別のことが───
「えー……皆さん。突然のことで驚かれると思いますが、僕と、そして隣にいるリリは……結婚しようと思っております」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます