第6話 宴の中での攻防
夜になり宴が始まり、村の連中、そして村の外からの客も、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。
俺はそういう賑やかさは得意ではないので、村の中心からちょっと離れた場所で様子を見てるんだが……ここまでのはっちゃけつぷりはほとんど見たことがないな。
父さんと母さんのあんな楽しそうな顔も久しぶりだ。
視線を少し左に向けると、勇者がいた。
「うわぁ……」
勇者……の周りを見て俺は顔をひくつかせた。
村の女性たちが、勇者を取り囲んでいる。
二十代から三十代の、確か彼氏がいない人たちだな。
もしも勇者と結ばれるようなことがあれば、その後の将来は安泰間違いなしだから、そりゃ必死に自分を売り込みに行くわな。
他の町でも同じことがあったのかは知らんが、これも勇者の試練だな。俺はごめんだ。
それから視線を右に移動させると、そこにはリリがいた。
この宴の主役も、楽しんでいる。
リリの周りにはおじさんおばさんたちがいるな。旅での出来事を聞いているのだろうか? 適当なところで解放してやれよな。リリがこの宴を心ゆくまで堪能しないと意味がないなんだからな。
「あれ? あのアホトカゲはどこに行ったんだ?」
周りをキョロキョロと見渡しても見つからない。
これはアレか? 屋台の食べ物全制覇するために奔走でもしてるのか?
「イケメンでも、所詮中身はトカゲ……食い意地が張ってるな」
「おい小童。貴様、そんなところで何をしておる?」
「うぉあ!!?」
突然後ろから声をかけられた! なんだ!? 足音しなかったぞ!?
「お、お前! どこから……」
アホトカゲを見ると、両手の指の間に肉の刺さった串を持ち、そのうちの一つにかぶりついていた。
「……ちと食いすぎたのでな。ここらで箸休めと思うたら貴様の姿が見えたのでな」
「箸休めって……思いっきり肉を食ってるじゃないか!」
どこが箸休めだよ!
だけどちゃんと飲み込んでから喋り出すとは……意外と律儀だ。
「細かいことは気にするでない。して貴様は……なるほど、リリたんを見ておったのか」
すぐにバレてしまった。
こいつ、アホなのにやっぱり侮れない……!
「勇者を見てるとは思わなかったのかよ?」
「男が男をジロジロ見て何になる? となれば、見るのは見目麗しいリリたんの他にいまいて」
まぁ、確かにそうだけどさ。
「勇者ってだけで同性の視線も集めちまうもんじゃないのか?」
魔王を倒した勇者なんて、そうそうお目にかかれるもんじゃないし、誰だって見るだろ。
「だとしてもほんの数秒見るだけで飽きるであろう」
こいつ……もしかして女好きか?
「このエロトカゲめ」
「何を言うか小童! 貴様はあのリリたんの美しさが理解できおう! あだっ! ぬおぁ!?」
なんかリリについて力説しようとしていたエロトカゲの頭に、何か飛来物が三つ飛んできてた。
その衝撃でエロトカゲが持っていた串が全て落ちてしまった。
「な、なんだ!?」
「あぁ……我の肉が……」
大してダメージはないみたいで、落としてしまった肉を悲しそうに見ている。肉はもったいないが、これで本当に箸休めだな。
俺は逆で上を見ていたんだけど、エロトカゲに当たったであろう矢みたいな物が三つ、ふよふよと浮かんでいた。
「これ、もしかして魔法?」
ということは、これはリリの仕業!?
「す、『ストーンアロー』!? リリたん───」
トカゲが『ストーンアロー』と呼んだ、三つの矢のうちの一つが、ものすごいスピードでトカゲに向かっていった。
だが、それをトカゲはひらりとかわした。す、すげぇ……!
俺がトカゲの身のこなしに感銘を受けていると、頭の中にリリの声が響いた。
『アホトカゲ、あんたが私をそう呼ぶ度に、『ストーンアロー』が一本ずつ飛んでいくわよ』
な、なんだこれ!? リリが近くにいないのに、なんでリリの声が頭に!?
『多分アロンはわかってないと思うから説明しておくけど、思念通話ってやつよ』
「しねん……つうわ?」
『言葉を交わしたい相手が近くにいない時、その人の顔を思い浮かべることで相手の心に話しかけることが出来る魔法みたいなものよ。遠すぎるとかなり魔力を使わないとできないけどね』
「な、なるほど……?」
わかるような、全然わからんような……。
『あ、今ならあんたもこの思念通話で私と喋れるわよ』
「マジか!」
ちょっと試してみるか。
えっと、話したい相手……リリを思い浮かべ……変な気持ちは抱くな!
『こ、これでいいのか?』
『そうそう。すごいわアロン!』
「へ、へへ……まあな」
リリに褒められるのは、やっぱり悪い気はしないな。
「くっ……我の肉が……おのれリリたん」
あ、こいつの存在を忘れていた。
なんか地面に落ちた串を拾って、ゆっくりと立ちながらリリに恨み言を言っている。
そしてアホトカゲの『リリたん』に反応して、『ストーンアロー』の一つがアホトカゲ目掛けて飛んでいく。
「な……!」
アホトカゲの持っていた串が燃えて、肉が消し炭になったと思ったら、今度は串から白色の魔力みたいなものが出てきて、串を包んでいる。
これは、アホトカゲの力!?
アホトカゲは串を構え、飛んできた『ストーンアロー』を弾いた。
「ふはは! 甘いぞリリたん!」
飛んで来た『ストーンアロー』をまた弾いた。
「そんなものでは我は倒せんぞリリたん!」
また弾いた。
「不意打ちさえなければ、このような弱い魔法など、我には効かぬぞリリたん!」
またも弾く。
……というか、あいつが『リリたん』なんて呼ばなければ『ストーンアロー』も飛んでこないんじゃないのか? なんかわざと言ってるようにも見えるんだけど。
「ふ、腹ごなしにはちょうど良いな!」
そう言うと、アホトカゲは上空に飛んだ。
一度のジャンプであそこまでの高さ! やはりこいつはただ者じゃない! アホだけど。
「リリたんリリたんリリたんリリたんリリたんリリたんリリたんリリたんリリたん!」
ガギギギギギギギッ!
す、すげぇ……あんなに連続して飛んでくる矢を、全てはじき飛ばしている。
というかよく噛まずに連呼できるな。
アホトカゲはなおも矢を弾きながら降りてきた。人間の姿では飛べないのか?
「ふんふんふん……ふぅん!!」
「なに!?」
アホトカゲが弾いた『ストーンアロー』の一つが、俺の方に飛んできた。俺との距離は十メートルほどあるのに、凄まじいスピードでこちらに飛んできている。
剣は……ない! 迎撃も……無理! 避ける? いやそれこそ不可能だ。
やばい……死───
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます