第4話 凱旋の幼なじみ

 目を開けた瞬間、少し強い風がふいて、リリの身につけているマントがなびいた。

 本で見た魔法使いがかぶっている帽子を飛ばされないように抑えている。

 ボタンとフリルがついた白いシャツの上には黒のベスト、黒く短いスカートからリリの長い脚が伸びていて、膝までを黒の長いブーツに隠されている。

 腰には短剣をさしているが……杖は見当たらない。

 黒が中心の服だが、リリの燃えるような真っ赤なさらさらな髪がものすごく映える。

 というか、三年でここまで変わるものなのか……。

 三年前、この村を旅立った時は幼さの残る顔立ちだったのに、今はそれが見られない。

 目鼻立ちはすっかり大人びた女になっていて、緑色の瞳に吸い込まれそうだ。

 これが、幾多の命がけの旅をして、色々な経験を積んだ女の顔かよ。

 そんなリリの顔を見ていると、リリは笑顔を崩し、だんだんとニマ~っとした顔に変えていった。あ、嫌な予感。

「な~にアロン? あんただけすぐにここまで駆けつけてくるなんて……そんなに私に会いたかったの?」

「な……!」

 こいつ……帰ってきてわずか数秒でそんな、からかうような真似を……!

「私がいなくなって寂しい気持ちはわかるけど、村の中で待てなかったなんて、よっぽど私が好きなのね」

「……な、なに言ってんだお前! 自意識過剰は相変わらずだな! 三年間世界を旅してちょっとはマシになったと思ったけど、中身はまんまだなちんちくりん!」

 あぁ……またやっちまった。

 俺たちは村の中じゃあ、ほとんど毎日一緒に遊んでいたんだけど、こうやって口喧嘩をすることも多かった。それもくだらない理由が原因で。

 十八にもなったんだから、いい加減やめりゃいいのにって自分でも思うんだけど、ついつい過剰に反応しちまうんだよなぁ。

「あ、あんたまだちんちくりんって言うの!? 見なさいほら! この三年間でちゃんと育ったんだから!」

 そう言ってリリは背中を反り、自身の胸部を強調させた。

「ほとんど変わってないじゃないか!」

 わずかな膨らみは見える。が、それでも三年前とほとんど変化はない。

「なんでそんなことがわかるのよ!? スケベ! 変態!」

「覚えてるもなにも、三年前はまな板だったんだから、そんなの覚えてるうちに入らねーよ!」

「また言ったわね!? もうまな板じゃないもん!」

「まな板上がり」

「な、なんですってーー!?」

 ボソッと呟いたのに、耳ざといなこいつ。

 なかなかお怒りのリリはビシッと俺を指さした。

「そういうあんただって、三年前からちっとも……ち、ちっとも…………え?」

 リリは怒りに任せて、『あんたも全然変わってないじゃん!』とか言おうとしたんだろうがお生憎様、俺はこの三年間で身体つきはかなり変化したんだ。

「な、なんであんた、そんなに腕に筋肉ついてんのよ!?」

「そりゃ俺だって色々頑張ったんだよ」

 腕だけじゃなく全体的に筋肉をつけたからな。リリも『変わってない』とは言えないだろ。

「それにそんな剣まで持って……は?」

 リリのやつ、今まで俺が持っている剣に気づいてなかったのか!? 腰にさしたままならともかく、鞘から抜いて手に持ってるっていうのに……。

 驚きで目を見開いたまま、リリのやつは今度は俺の持っている剣を指さした。

「あ、あんたなんで剣なんて持ってるのよ!?」

「なんでってお前、そんなのこのドラゴンを迎え撃つために決まってんだろ」

「は、はあぁぁぁぁぁーーーー!?」

「うおっ!?」

 そういやリリに気を取られて忘れてたけど、このドラゴン全然襲ってこないな。いや、暴れられたら俺はすぐに死んじまうだろうから暴れないでほしいんだけど。

 それにしても、リリのやつ、ちょっと驚きすぎじゃないか?

「ああ、アンタバカじゃないの!? アンタなんかがこの───」

「ぶわぁーーはっはっはっー!!」

「!?」

 な、なんだこのバカでかい笑い声は!?

 なんかすごく上の方から聞こえたような……え、まさかとは思うが、このドラゴンが!?

「貴様のような小童こわっぱが一人でこの我を迎え撃とうなどと……片腹痛いわ!」

「なっ! ど、ドラゴンが喋った!?」

 もしかしてこいつ、知能があるのか!?

「当たり前じゃない。このドラゴンは───」


「本来ならば、我に盾突こうとした時点でその四肢をもがれても文句は言えんのだが、他ならぬリリの知り合いということで、特別に許してやろう。小童、リリたんに、リリたんという存在に感謝せよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る