第3話 ドラゴンの襲来

 村の中心にある見張り台、そこには木の板と木槌が吊るしてあり、物見が村の近辺に異常を察知すると、木槌で板を叩き、その音で村中に危険を知らせるんだが……魔王がいなくなった今、なんの危険がこの村に迫ってるんだ?

 モンスターはいるが、それは俺がリリがこの村を旅立ってからは俺が毎日周囲を見回りをしている。今日はしていないが、まさかそんな日に限ってモンスターが近くに!?


「ど、ドラゴンだ! 巨大なドラゴンがこっちに向かって飛んで来ているぞ!!」


 物見からの情報が、瞬く間に村中に伝播され、村は一瞬にして混乱に陥った。

 祭りの準備を放り出して逃げ惑う人たち、飛び交う悲鳴、とても収拾なんてつかない。

 そりゃそうだ。 竜種のモンスターなんて、この近辺には生息していない。しかも巨大ときたもんだ。落ち着いてなんていられない。

 そして俺は、混乱する人をかいくぐり、全力で家へと走り出した。

「お、おいアロン! 待て!」

 父さんの静止を無視し、俺は家へと走る。

「き、聞いたかいアロン! ドラゴンが───」

「わかってる!」

 家に戻ると、俺は自室に入り剣を取った。

「あ、あんたまさか……!」

「……やるしかないだろ!」

「馬鹿なことはおやめ! アロン!!」

 母さんの静止も振り切り、俺は再び村の出入口へと走る。

 ふざけんなよ! 今日は、あいつが……リリが三年ぶりに帰ってくる大事な日だ!

 村ではリリの凱旋を祝しての祭りが執り行われるんだ!

 でっかいドラゴンだかなんだか知らないが、好き勝手に蹂躙されてたまるか!

 俺は自分に誓ったんだ! リリが世界を救うなら、俺はあいつの帰ってくるこの村を守るって!

 その思いで剣を握り、三年間我流で剣術の修行をしながらこの近辺のモンスターと戦ってきたんだ。

 でっかいドラゴンが相手だろうと、簡単にやられるわけにはいかない!


 しかし、人が多いな。ここよりもデカい町だとこれが普通かもしれないが、こんな辺鄙な村じゃあこれでも人が多く感じる。

 困ったな。この状況じゃが使えない。

 モンスターと戦って強くなって、俺にも習得した技がある。

 勢いをつけた一撃じゃないと、ドラゴンにはダメージが入らないかもしれないってのに……くそ!


 人の波を掻き分けながら村の出入口に到着すると、ドラゴンは村の近くで降下を始めていた。

「やっぱり狙いはこの村かよ!」

 このまま上空を飛び去ってくれればいいと淡い期待を持っていたが、あっさりと裏切られた。

 俺はまだ同じ場所にいた父さんの横をすり抜けて村を出た。

「おいアロンやめろ! お前の適う相手じゃない!」

 そんなことくらいわかってるよ! だけどじっとしていることなんて俺には無理だ!

 しかし、近くで見ると本当にデケーな。一体何メートルあるんだ!?

 その背中に人間数人が楽々と乗れるほどの体躯のドラゴンが近づくにつれ、俺は戦意が削がれるのを必死に堪えながらドラゴンに向かって走る。

 今なら使えるんじゃないか? 俺とドラゴンの間には何もない。

「よし、これなら……!」

 俺は技を発動するために軸足に力を入れた。

 それとほぼ同時に、ドラゴンのすぐそばに青い魔法陣が展開された。

 俺は使おうとしていた技を止め、その場に留まり剣を構える。

 なんだ……何の魔法が来る? 色からして水か氷の魔法か?

 でもなんでドラゴンの真下に魔法陣が出てないんだ? 普通は術者の下に魔法陣が出るんじゃないのか?

「しまった!」

 俺があれこれと思案していると、魔法陣から青い光が上空に向けて伸び、俺は眩しさで目を閉じた。閉じても眩しいと感じるほどの強い光だ。

 やばい! これではやつの攻撃をかわすことも防ぐことも出来ない……!

 くそ、ここまでかよ……!

 攻撃を避けきれないと思った俺は覚悟を決めたのだが、一向にドラゴンからの攻撃はやってこない。

「……?」

 やがて、光も弱くなり、眩しさもなくなったその時、俺の耳に聞いたことのある懐かし声が届いた。

「……アロン?」

「……!」

 この声……忘れるはずがない。

 三年前まで毎日聞いていた、懐かしく優しい声。

 俺はゆっくりと目を開けると、ぼんやりした視界の中で見えたのは、さっきまであった魔法陣は消えていて、そこに立っていたのは紛れもない俺の幼なじみだった。

「……リ、リ?」

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