第2話 幼なじみが帰ってくる日

 既に朝日が昇りきった時間、俺はあくびをしながら自室から出た。

 なんか目が覚めたら村の連中の大きな声や、金づちで釘を打つ音とか聞こえてきたけど、今日ってなんかあったっけ?

「アロン、遅いじゃないさ! 何時まで寝てるの!?」

 居間に入ると、母さん───カヤにいきなり怒られた。

「いいだろ別に……いつもこれくらいに起きてるんだから」

「あんた今日がなんの日か忘れたわけじゃないでしょうね? 今日はリリちゃんが帰ってくる日なのよ!」

「……わかってるよ」

 忘れてるわけないだろ。

「なら早く朝ごはん食べて、お父さんたちの手伝いをしに行きな!」

 あれ? そういや父さんいないな。畑で農作業でもしてんのか?

「父さん、どこ行ったんだ?」

 普通に父さんの所在を聞いただけなのに、母さんに盛大にため息をつかれた。

「あんた聞いてなかったの!? 今日の夜はリリちゃんの凱旋を祝してのお祭りをやるって言ってたでしょ!」

 お祭り? ああ……。

「そういや聞いた気がする」

 リリが帰ってくるという事実で、緊張していたのか、父さんからそんなことを聞かされていた気がするけど頭からすっぽりと抜け落ちてた。

「お父さんも、村の男衆はほとんどそっちに行ってるから、あんたも早く朝ごはん食べて、手伝いに行きなさい」

「……わかったよ」

 今日もリリが帰ってくるまではをしようと思ったけど、そういうことなら仕方ない。今日は祭りの手伝いを頑張りますか。

 俺は朝食を平らげ、水につけてから家を出た。


「村長、おはようございます」

 俺は村の中心で、祭りの準備の陣頭指揮を取っている村長───ゴトルフに挨拶をした。今日もいい頭のひかり具合だ。

「おお、アロン! やっと来おったか」

「すんません。寝坊しまして」

 俺は村長に謝りながら、見張り台を見上げた。

 高さが十メートルある見張り台の上から、村の四方に向けて何かめちゃくちゃ太い縄が伸びていて、その縄にはランプみたいなのが等間隔に吊るされている。

「まあいいじゃろ。ほれ、ガレード……お前の父は村の入口付近におるから、お前もそちらを手伝ってくれ」

「は~い」

 俺は村長に挨拶をしてから、父さんがいるという村の入口付近に向かった。


「……え? なにこれ、屋台?」

 目的地に向かうと、村の人やそれ以外の人が屋台を組み立てていた。

「この村の人間じゃない人……行商人かなんかか?」

「ん? おお、アロン! やっと起きたか」

 俺が見慣れた村の見慣れない景色をキョロキョロと見ながら歩いていると、父さんが俺に気づいて声をかけた。

「おはよう父さん。それよりもこれって……」

「ああ、リリちゃんが今日帰ってくるってのを周辺の町村ちょうそんに村長が伝えてな。それで、世界を救った勇者一行の一人、紅蓮の大魔導師様を一目見るのと同時に、商売をしていこうって人が集まってんのさ」

「商魂たくましいのか野次馬根性がたくましいのかよくわからないな」

「はは、まあそう言うな。この村でデカい祭なんて、前回やったのがいつだったか忘れちまったくらいだからな。みんな気合いが入ってるんだ」

 紅蓮の大魔導師様……か。随分と仰々しい二つ名がついちまったもんだな。

 多分、あの燃えるような赤い髪が、その二つ名の由来なんだろうな。

 でも、女なんだから、周りの人間ももっと可愛らしい二つ名を付けろってんだ。

「ん? でも周りの町村にも声をかけたってことは……」

「これから続々と村に人がやってくるかもしれんな」

「マジかよ。その人たちはどこで寝泊まりするんだ? この村には宿泊施設は一つしかないんだぞ?」

 こんな辺鄙へんぴな村に、都会のような立派な宿泊施設なんてあるわけもなく、あるのはこじんまりとした宿一つ……部屋は確か六つしかなかったはずだ。

 たまにやってくる行商人や、ふらっとやってくる冒険者が利用したりするが、今回は圧倒的に部屋数が足りないんじゃないか?

「村長が空き家を解放するって言ってな。女衆がそこの掃除をしてるんだよ」

「な、なるほど……」

 それでも足りるか?

「ま、どうせ大人たちは飲めや歌えやでつぶれちまってその辺りで寝るだろうから、問題ないだろ」

「大丈夫かよ? それ、泥棒に入られるんじゃ……」

 家の戸締りも不十分なままで酔いつぶれて寝ちゃったら、翌朝家の金目の物が根こそぎ盗られた……なんてことになれば洒落にならないぞ。

「紅蓮の大魔導師様がいる村で悪さを働こうって命知らずはいないさ。リリちゃんに見つかれば結果は目に見えてるしな」

「た、確かに……」

 紅蓮の大魔導師……その名前だけで犯罪の抑止力には十分すぎる。

「さ、おしゃべりはこれくらいにしてお前もそろそろ手をうご───」

 父さんが話を切り上げ、作業を再開しようとした時、村の中心から『カンカンカン!』と危険を知らせる乾いた木を打ち付ける音が村中に響き渡った。



 村の中心にある見張り台、そこには木の板と木槌が吊るしてあり、物見が村の近辺に異常を察知すると、木槌で板を叩き、その音で村中に危険を知らせるんだが……魔王がいなくなった今、なんの危険がこの村に迫ってるんだ?

 モンスターはいるが、それは俺がリリがこの村を旅立ってからは俺が毎日周囲を見回りをしている。今日はしていないが、まさかそんな日に限ってモンスターが近くに!?


「ど、ドラゴンだ! 巨大なドラゴンがこっちに向かって飛んで来ているぞ!!」

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