第13話 闇に潜む真実

逃げ去った北川と三宅の背中を見送った斉藤は、わずかに残る煙の中で冷静さを取り戻そうと努めた。夜の静寂が再び戻ってきた倉庫の中には、先ほどの騒動の余韻がわずかに残っているだけだった。高村が懐中電灯の光を照らしながら、倉庫の隅々まで確認していたが、もう誰の姿も見当たらない。


「彼らを逃がしてしまいましたね…」高村は悔しそうに呟いた。


「そうだな。しかし、彼らの焦りがこちらの優位を示している。」斉藤は静かに応じた。「このまま引き下がるわけにはいかない。彼らが次に動く場所を突き止めるんだ。」


「それにしても、教授…」高村は照らし出された倉庫内を見渡しながら言葉を続けた。「一体何が隠されているのか。山本教授が守ろうとしたものが、これほどまでに彼らを追い詰める理由は何なんでしょうか?」


「それが分かれば、この事件の全貌が明らかになる。」斉藤は硬い表情で倉庫内を歩き回りながら考え込んでいた。「彼らが隠しているのは、おそらく山本教授の研究に関連する何かだ。そして、それは単なる科学的な発見ではない。もっと深い闇がそこに潜んでいる。」


その時、斉藤の目が倉庫の奥にある古びた棚に留まった。棚の一角には、埃を被った古いファイルが無造作に置かれていたが、その中に一冊だけ異様に綺麗な状態のものが混じっていることに気づいた。斉藤は慎重にそれを取り出し、表紙を確かめた。


「高村君、これを見てくれ。」斉藤はファイルを手に取り、高村に示した。


ファイルの表紙には、見覚えのある名前が記されていた。そこには「山本敬 研究記録—非公開」と書かれており、それがこの場所に隠されていた理由が徐々に明らかになっていく。


「非公開…?」高村は驚いた表情でファイルを受け取り、中を確認し始めた。「山本教授が生前に記録していたものですか?」


「おそらく、そうだろう。」斉藤は静かに答えながら、内容を読み始めた。「これは彼の研究の中でも、特に重要で機密性の高い内容を記録したものだ。ここに隠されていたのは、誰にも知られたくない内容だからだろう。」


ファイルには、山本教授が進めていた化合物の研究に関する詳細な記述が書かれていた。それは、彼が最後に辿り着いた危険な発見についての報告書であり、その化合物が持つ恐ろしい可能性についても詳述されていた。


「この化合物は、通常の状態では安定しているが、特定の条件下で極めて強力な神経毒に変化する…」斉藤はその記述を読み上げた。「山本教授はこれが兵器として悪用される危険性を察知し、それを封印しようとしていた。」


「つまり、彼はこの発見が世に出ることを恐れていたんですね。」高村はその内容を聞きながら、背筋に冷たいものを感じた。「そして、それを知った三宅と北川が彼を…」


「そうだ。」斉藤は硬い声で答えた。「彼らはこの化合物を手に入れることで、莫大な利益を得ようと考えた。しかし、山本教授はそれを許さなかった。だからこそ、彼は殺された。」


斉藤はファイルをさらに読み進めたが、その中に一つの重要な手がかりを見つけた。それは、山本教授が最後に行った実験の結果であり、彼が発見した化合物のサンプルがどこに保管されているかについての記述だった。


「ここだ…」斉藤はページに目を凝らしながら呟いた。「山本教授が最後に残したサンプルは、まだ安全な場所に保管されている。彼らがこれを手に入れようとしているのなら、その場所が次の狙いになるだろう。」


「その場所は?」高村が急いで尋ねた。


「都内にある、大学の研究施設だ。」斉藤はページを指差しながら答えた。「山本教授が信頼していた少数の研究者だけが知っている場所だ。しかし、彼らはその場所を突き止めている可能性がある。」


「急がなければ…」高村はすぐに身支度を整え始めた。「教授、彼らがそのサンプルを手に入れれば、全てが終わります。私たちがそれを阻止しなければ!」


「その通りだ。」斉藤はファイルをしっかりと閉じ、決意を新たにした。「山本教授が命を賭けて守ろうとしたものを、私たちが引き継ぐ。そして、彼の死の真相を明らかにするためにも、この戦いを終わらせる。」


二人は急いで倉庫を後にし、再び夜の闇の中へと飛び出した。次なる戦いの場は、山本教授が最後に託した研究施設――そこで待ち受ける真実が、全てを明らかにする鍵となる。


その先に待ち受けるものは、どんな結末であれ、斉藤と高村はそれに立ち向かう覚悟を決めていた。夜の静寂は彼らの決意を包み込み、次第に濃厚な緊張感が漂い始める。全ての謎が解き明かされる時が、刻一刻と近づいていた。

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