第12話 暗闇の中の策略

夜が更け、街の喧騒が徐々に静まりを見せる中、斉藤は研究室のデスクに広げた資料を前に、深く考え込んでいた。瀬川から聞いた話は、事件の全貌を明らかにするための重要なピースであると同時に、新たな疑問をもたらしていた。山本教授が命を賭けて守ろうとしたもの、そして瀬川がその決断に至るまでの過程――その全てが斉藤の中で絡まり合っていた。


そんな中、研究室のドアが静かに開かれ、高村が足音を忍ばせながら入ってきた。彼の顔には緊張の色が浮かんでいたが、その目は決意に満ちていた。


「教授、少しお話ししたいことがあります。」高村は声を潜めたまま、斉藤のデスクに近づいた。


「どうしたんだ、高村君?」斉藤は手にしていた書類から目を離し、彼に視線を向けた。


「実は…」高村はためらいながらも、意を決したように続けた。「三宅部長の動きを調べていたところ、彼が何か大きな動きをしている痕跡を掴みました。今夜、彼は密かに誰かと会合を持つ予定があるようです。」


「会合?」斉藤は眉をひそめた。「それは、どこで行われる?」


「場所は、郊外の古びた倉庫です。製薬会社の所有地ではありませんが、彼が密かに利用している場所のようです。」高村は、手元のメモを斉藤に見せながら説明した。


「それは…かなりリスクのある動きだな。」斉藤は静かにメモを受け取り、内容を確認した。「彼が誰と会おうとしているのか、何か心当たりはあるか?」


「おそらく、北川だと思います。彼らは山本教授の研究に関して何かを隠している。そして、今夜の会合でその隠された事実を確認しようとしているのではないでしょうか。」高村は鋭い目つきで斉藤を見つめた。


「それならば、我々も動くべきだ。」斉藤は即座に決断した。「この機会を逃すわけにはいかない。三宅と北川の動きを押さえ、彼らが何を企んでいるのかを突き止める。」


高村は頷き、二人は急いで準備を始めた。斉藤はコートを羽織り、手元の資料をカバンに詰め込んだ。高村も武器と捜査用具を手に取り、二人は夜の闇の中へと出発した。


郊外の古びた倉庫に到着すると、周囲は静まり返っており、人気のない不気味な雰囲気が漂っていた。倉庫の外観は長年放置されているかのように見えたが、その内部には何かが動いている気配が感じられた。斉藤と高村は慎重に倉庫に近づき、入口の陰に身を潜めた。


「ここがその場所か…」斉藤は低い声で呟いた。


「はい。中に入る前に、まず様子を確認しましょう。」高村は懐中電灯を消し、夜目を頼りに倉庫の中を覗き込んだ。すると、薄暗い内部には、何人かの人影が動いているのが見えた。その中心には、確かに三宅と北川の姿があった。


「やはり…二人が一緒にいる。」斉藤はその様子を見て、全てが繋がり始めるのを感じた。「あの二人が何を話しているのか、確かめる必要がある。」


高村は無線機を取り出し、小声で応答した。「増援は準備できていますが、あくまで慎重に進めましょう。彼らが逃げないように、周囲を封鎖しておきます。」


斉藤は頷き、倉庫の裏手に回り込んだ。そこで、密かに倉庫内の会話が漏れ聞こえてくるのを確認し、耳を傾けた。


「…これが最後のチャンスだ、北川。」三宅の冷たい声が聞こえてきた。「山本の研究成果を確保しなければ、我々は全てを失うことになる。あの化合物が手に入れば、全てが覆せる。」


「わかっている。」北川もまた緊張した声で答えた。「だが、斉藤たちが我々に迫っている。彼らがこれ以上深く掘り下げる前に、処理しなければならない。」


「処理…だと?」斉藤は心の中でその言葉を反芻した。


「そうだ。」北川は続けた。「斉藤と高村は我々にとって最大の障害だ。彼らが山本の研究を解明する前に、手を打つ必要がある。あの倉庫に残された証拠を全て消し去るんだ。」


「だが、その前に…」三宅は低く唸るような声で言った。「斉藤をどうにかしなければならない。彼が我々の動きを掴んでいる限り、安心はできない。」


斉藤はその言葉を聞き、彼らが自分に対して何かを企んでいることを確信した。これは、危険な局面に突入する前兆だと悟った。


「高村君、今すぐ行動に移るぞ。」斉藤は無線機で高村に指示を出し、彼らを捕まえるために一斉に動き出した。倉庫の周囲にはすでに警察の増援が配置されており、彼らを逃がすことはない。


しかし、三宅と北川は既に気配を察知し、倉庫から逃げ出そうとしていた。高村がその後を追いかける中、斉藤は必死に二人を追い詰めようとしたが、北川が突然立ち止まり、斉藤に向き直った。


「斉藤教授…あなたも追い詰められたようだな。」北川は不気味な笑みを浮かべ、何かを手にしていた。「だが、これで終わりだ。」


その瞬間、北川が手にしていたものが爆発的に光を放ち、煙が立ち込めた。斉藤は一瞬視界を奪われ、混乱の中で北川が逃げ去る音を聞いた。


「高村君!北川を逃がすな!」斉藤は叫びながら煙の中を進もうとしたが、視界が戻る頃には、北川の姿は消えていた。


三宅もまた、別の出口から逃げ出し、倉庫の周囲は一気に騒然とした。斉藤はその場に立ち尽くし、息を整えながら次の手を考えた。


「彼らは…まだ何かを隠している。」斉藤はそう呟き、再び冷静さを取り戻した。「だが、このまま逃がすわけにはいかない。全てを明らかにするためには、彼らの次の一手を見抜くしかない。」


夜の闇は、ますます深まっていった。しかし、斉藤の心は決して揺るがなかった。科学の力と鋭い洞察力で、全てを暴き出すために――

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