第10話 閉ざされた扉の向こう
斉藤、瀬川、高村の三人は、山本教授が生前に利用していたという別の研究施設の存在を突き止めた。それは大学のキャンパスとは離れた郊外の静かな場所にあり、山本教授が秘密裏に行っていた最後の実験がそこで行われていた可能性があった。瀬川の話によれば、教授は誰にも知られないようにその場所で研究を続けていたという。
夕暮れ時、三人はその研究施設へと足を運んだ。施設の周囲には深い森が広がり、人気はほとんどなかった。薄暗くなりかけた空の下、施設の入り口はまるで訪問者を拒むかのようにひっそりと閉ざされていた。建物は古びており、外壁には長年の風雨による汚れが染みついていた。
「ここが、山本教授が最後に使っていた施設です。」瀬川が静かに言った。
「彼がここで何をしていたのか、全てを確認する必要がある。」斉藤は真剣な表情で答え、施設のドアに手をかけた。だが、ドアは鍵がかかっており、容易に開けることはできなかった。
「これを使ってみてください。」高村が手渡したのは、特殊な鍵開けツールだった。彼は以前から準備していた道具を取り出し、斉藤に手渡した。
斉藤は道具を慎重に使い、ドアの鍵を解除した。錆びた音が響き、重いドアがゆっくりと開かれた。中から漂ってきたのは、長い間誰も足を踏み入れていなかったことを示すような、カビ臭い空気だった。
「行こう。」斉藤は静かに言い、三人は慎重に中へと足を踏み入れた。
施設の内部は暗く、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。床には古い実験機材が散らばっており、壁には朽ちかけた研究資料が所々に貼られていた。照明は壊れており、唯一の光源は三人が持っている懐中電灯だけだった。
「山本教授はここで何をしていたのか…?」瀬川がつぶやいた。
「それを確認しよう。」斉藤は一つ一つの機材を調べながら、慎重に進んでいった。やがて、施設の奥にある一部屋が目に留まった。その部屋のドアは、他の場所とは違い、新しい錠前が取り付けられていた。まるで、何かを隠すために後から施錠されたかのようだった。
「ここが核心かもしれない。」斉藤は再び鍵開けツールを使い、慎重に錠前を外した。ドアが開くと、そこには意外にも整然とした研究室が広がっていた。机の上には、山本教授が最後に使用していたと思われる装置や書類が整然と並んでいた。
「教授がここで何をしていたのか…」高村が思わず呟いた。
斉藤は一つ一つの書類に目を通しながら、山本教授が何を求めていたのかを探った。その中に、一冊の古びたノートがあった。それは、かつて彼が手に入れた「最終研究」のノートとは異なるものだったが、同じく重要な情報が書かれているようだった。
「これは…」斉藤はノートを開き、その内容に目を凝らした。そこには、山本教授が最後に手がけていた研究の核心が記されていた。それは、彼が発見した化合物の詳細な性質と、それを利用して作り出すことができる強力な神経毒についての記述だった。
「やはり、この化合物は…」斉藤は声を潜めながら言った。「これを使えば、特定の環境で致命的な毒を生成することができる。山本教授はそれを恐れて、この研究を封印しようとしていたのかもしれない。」
「しかし、誰かがそれを利用しようとした…」瀬川が続けた。
「北川か、それとも別の誰かが…」高村が呟いた。
その時、部屋の外で微かな物音が聞こえた。三人は即座に身構えた。外から近づいてくる足音が徐々に大きくなり、施設の中に響き渡った。
「誰かが来た…」高村が低い声で言った。
「静かに、ここに隠れて。」斉藤は素早く机の下に隠れ、他の二人も急いで身を潜めた。
部屋のドアがゆっくりと開く音が聞こえ、複数の足音が部屋に入ってきた。懐中電灯の光が部屋の中を照らし、何者かが中を調べているのがわかった。
「ここに何がある…?」低い声で男が呟いた。
「北川の指示だ。この施設の中に残されたものをすべて持ち帰るようにとのことだ。」別の男が応じた。
斉藤はその言葉を聞きながら、彼らが北川の指示を受けた人物であることを確信した。彼らは明らかに山本教授の研究を持ち出すためにここに来たのだ。しかし、斉藤はまだ動けない。彼らが何を探しているのかを見極める必要があった。
「見つけたぞ。」一人の男が机の上のノートを手に取り、声を上げた。「これが最後の記録だ。急いで持ち帰るぞ。」
その瞬間、斉藤は意を決して姿を現した。「待て、動くな!」
男たちは驚いて振り返り、斉藤たちを見つめた。しばしの沈黙の後、男たちは一斉に動き出し、斉藤たちに向かって襲いかかろうとした。しかし、高村がすかさず警察手帳を見せて威嚇した。「警察だ!これ以上動くな!」
男たちは一瞬たじろいだが、そのうちの一人が冷静に言った。「警察だろうと関係ない。俺たちは指示を受けているだけだ。」
「指示?誰の指示だ?」斉藤が問い詰めた。
しかし、男たちは答えることなく、斉藤たちを押しのけて逃げ出した。高村がすぐに追いかけようとしたが、斉藤は彼を制止した。「追いかけても無駄だ。彼らの狙いはわかっている。重要なのは、ここで見つけた情報だ。」
高村は渋々頷き、逃げていく男たちの背中を見送った。「あいつら、北川の手下ですか?」
「その可能性が高い。」斉藤は冷静に答えた。「彼らが持ち去ろうとしたのは、山本教授が最後に残した記録だ。だが、幸いにもそれはすでに私たちの手元にある。」
「このノートが事件の鍵を握っているんですね。」瀬川が言った。
「そうだ。」斉藤は深く頷いた。「しかし、まだすべてが解明されたわけではない。これからが正念場だ。」
三人は再び研究施設を調べ直し、すべての手がかりを集める決意を新たにした。外の風が冷たく吹き込む中、斉藤たちは事件の真相にさらに近づいていく。しかし、その先に待ち受ける真実は、彼らが想像していたよりも遥かに恐ろしいものであることを、彼らはまだ知らなかった。
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