第7話 不審な動きと新たな出会い
斉藤と高村が三宅のオフィスを後にしてから数日が経過したが、事件の全貌は依然として霧の中に包まれていた。山本教授の死の真相に近づく手がかりはあるものの、それをつなぎ合わせる決定的な証拠が欠けている。斉藤は、研究室で山本教授の残したノートを再び読み返し、そこに隠されたメッセージを探り続けていた。
そんなある日、斉藤の元に一通のメールが届いた。それは差出人不明のメールで、件名には「山本教授の研究について」とだけ書かれていた。斉藤は眉をひそめながら、慎重にメールを開いた。本文には、ただ一つのメッセージが短く記されていた。
「彼が隠していたものは、地下にある。」
斉藤はその短い文面をじっと見つめた。それは、まるで何かの暗号のようにも思えた。山本教授の研究室には地下室など存在しないはずだ。それとも、何か見落としているのだろうか?
その疑問が頭をよぎった瞬間、斉藤は立ち上がり、すぐに高村に連絡を取った。「高村君、急いで山本教授の研究室に戻る。地下に何かがあるかもしれない。」
高村はその声に緊張感を感じ取り、「すぐに向かいます」と短く答えた。斉藤はすぐに研究室に向かい、山本教授の研究室を再び訪れた。彼の胸の中には、不安と期待が入り混じっていた。
研究室に到着すると、高村はすでに到着しており、入り口で斉藤を待っていた。「教授、地下とはどういう意味でしょうか?」
「分からない。ただ、何か見逃しているものがある可能性が高い。もう一度、研究室を徹底的に調べる必要がある。」斉藤は答え、すぐに研究室の中に入った。
二人は、山本教授の研究室の隅々までを再度確認し始めた。机の引き出し、書棚、そして床下。あらゆる場所を調べたが、目に見える異変は見つからなかった。だが、斉藤は諦めなかった。彼の目は、床の一部がわずかに不自然な形状をしていることに気づいた。
「ここだ…」斉藤は床を指し示し、手で軽く叩いてみた。すると、床板が微かに響き、明らかに空洞が下にあることを示していた。
「地下室がある…?」高村は驚きを隠せなかった。
「何かが隠されているのかもしれない。」斉藤は慎重に床板を外し始めた。そこには、確かに地下へと続く階段が隠されていた。階段は古びており、ほとんど使われていないようだったが、どこかに続いていることは間違いなかった。
「行くしかないですね。」高村が意を決して言った。
「そうだ。」斉藤は頷き、懐中電灯を手に取り、先頭を進んだ。階段を下りると、そこには狭い通路が続いていた。通路の壁には、古いレンガがむき出しになっており、長年の湿気で一部が崩れかけていた。
通路の先には、小さな扉が一つだけ存在していた。斉藤はその扉を慎重に開け、内部を覗き込んだ。そこには、古い研究機器と共に、山本教授が使用していたと見られる装置がいくつも並んでいた。
「ここで何をしていたんでしょうか…?」高村は呟いた。
「この場所が、彼の最後の研究拠点だったのかもしれない。」斉藤は慎重に部屋の中を調べ始めた。机の上には、古いノートや書類が積み重なっており、それらには一部焼け焦げた跡があった。まるで、誰かが証拠を隠滅しようとしたかのように見えた。
その時、背後から静かな足音が聞こえた。斉藤と高村は振り返ると、そこに立っていたのは、見知らぬ中年の男性だった。彼はスーツを着こなし、眼鏡をかけた、どこか洗練された雰囲気を漂わせていた。
「ようこそ、私の領域へ。」その男は静かに言った。
「あなたは…誰ですか?」高村が警戒しながら問いかけた。
「私は北川 直樹(きたがわ なおき)。かつて山本教授と共に研究をしていた者です。」その男は穏やかな笑みを浮かべたが、その笑みには何か冷たいものが感じられた。「教授の死について、何かお探しですか?」
斉藤はその言葉を聞きながら、直感的にこの男が単なる関係者ではないことを感じ取った。彼の目には、何かを秘めた光が宿っており、その真意を読み取るのは容易ではなかった。
「北川さん、なぜここに?」斉藤は慎重に尋ねた。
「私は山本教授の研究を引き継ごうとしている。彼が残したものは、非常に貴重だ。だが、その過程で何が起こったのかを知ることが重要だ。」北川は一歩前に進み、斉藤たちに近づいた。「しかし、あなた方がここにいるということは、私の計画が少し狂ったようですね。」
「計画…?」高村が声を詰まらせた。
北川はさらに冷たい笑みを浮かべた。「そう、山本教授が残した研究成果を、私は全て手に入れるつもりだった。だが、彼の死によって、その道が閉ざされてしまった。あなた方がそれを解き明かそうとするならば、私は協力しましょう。だが、その代償は高くつくかもしれません。」
斉藤は一瞬の沈黙の後、静かに言った。「あなたが何を隠しているのか、私には分かりません。しかし、山本教授の死の真相を突き止めるためならば、どんな情報も無駄にはしない。協力を求めるならば、全てを話してもらいます。」
北川はその言葉に応えるように、一冊の古びたノートを斉藤に手渡した。「これは、教授が最後に書き残したものだ。中には、彼が研究していた内容と、何が彼を追い詰めたのかが書かれている。だが、気をつけてください。このノートを読むことで、あなた方の命も危険にさらされるかもしれない。」
斉藤はそのノートを慎重に受け取り、北川を見据えた。「覚悟はできています。」
「それならば、道は開かれたも同然です。」北川は微笑み、再び背を向けた。「私はこれで失礼します。また会うことがあるでしょう。」
北川は静かにその場を後にし、斉藤と高村は残されたノートを見つめた。その表紙には、手書きの文字で「最終研究」とだけ書かれていた。
「教授…このノートに何が書かれているのでしょうか?」高村が不安げに尋ねた。
「今は分からない。しかし、このノートこそが全ての鍵だ。」斉藤はそう言い、ノートを慎重に開き始めた。その中には、数々の数式や図表、そして謎めいたメモがびっしりと書き込まれていた。
外の風が静かに吹き込み、古びた地下室に微かな音が響いた。その音は、まるでこれから始まる新たな戦いを告げるかのようだった。
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