第2話 ひまわり流護身術

※執筆に関して訓練中の身ですので、何かご指摘があればよろしくお願いいたします。


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 清子きよこが認識した現状は彼女にとって認めがたいものだった。

 自身が落ちたと感じた穴は今いる広い空間に繋がっていて、頭上には落ちてきたはずの穴が見えないこと。

 目の前の男たちの服装は日本では見ないタイプのものであること。

 使役されている革鎧の男たちは長い直剣で武装し、銃のたぐいは見えないこと。

 彼らの話している未知の言語が何故か理解出来ること。

 というように、清子きよこが置かれた状況は合理的な説明が難しい内容が含まれていたからだ。

 

 さらには彼らは清子きよこを拘束するつもりでいるらしいのだ。

 清子きよこが部下の男たちの直剣を見ていたのは彼らがそれを抜くかどうかを警戒していたからだった。

 しかし、彼らは剣を抜かずに手を伸ばしてきた。


 即座に対処出来そうな事態が発生した段階で、清子きよこは落ち着きを取り戻し、部下の男たちよりも早く行動に出た。

 身体のどこかから刃渡り20センチメートルもあるS字型の鉤爪のようなナイフを取り出すと、それで部下の男たち2人の延ばした手首を半ばまで切断してみせたのだ。


「ひまわり流護身術 破剣はけんり」


 彼女はそれだけを小さくつぶやきつつも気配を最小限にして移動し、さらに3人の部下の男たちの喉を斬った。


「あああ……誰か、誰か紐か帯を持ってないか?」


 手首を斬られた部下の男たちは急激に血圧が下がり、周りの様子も目に入っていないようで震えながら自分の手を押さえてうめいているだけだった。

 その間にさらに3人が喉を斬られて死んだ。


「おい、何が起きている? お前らさっさとあの女を捕まえんファガァ!」


 この場を仕切っていた例の中世風ヒゲ男は命令を全部言う前に額に鉛筆のような棒が刺さってこれも死んだ。


「ひまわり流護身術 抜き打ちぬきうち剣叉けんさ


 誰にも聞こえない呟きがその後に流れた。


「げっ、ボエー卿が死んでる!」


「ジノアート様が! 誰か部屋の外に出てハンポロ様に報告を、アゲェ!」


 慌て出した男たちは7人が残っていたが、しばらくの後に全員が同じ末路を辿たどった。


「ひまわり流護身術 引蓆自忍いんせきじにん


 清子が最後のつぶやきを発したところで、その室内には14人の男の死体と、大量出血で死にかけの2人が転がっていた。

 彼女は相手の腕を斬って無力化し、相手の目の前から消えて喉を斬り、細い棒を投げて相手の額に穴を開けてみせたのだ。


 室内の全員を無力化したと判断した彼女は追加の人員が来るまでに脱出経路か安全地帯の確認を行うべく行動を開始した。

 見回した室内は20メートル✕20メートルとそれなりに広く、真ん中の床には魔方陣らしき物が描かれ、魔方陣の周囲からケーブルのような管が出て床に潜り込んでいた。

 出入口はリーダーと思わしき男の背後にあった1ヵ所のみ。あそこからは追加の人間が来そうである。


 このまま相手を倒しながら進むか、または何とかこの上に元の踏み切りが無いか探すことのどちらが良いか清子きよこは悩んだ。

 清子は信じたくはなかったが、自分が気絶した感覚もないため、あの魔方陣が自分をここに送り込んだのではとも考えた。

 あのリーダーの言っていた「成功した」というのはそういうことではないだろうか。自分は異世界に転移してきてしまった可能性があることに清子きよこはここで思い至った。

 そうすると安全確保については自分の運と能力だけが頼りになってしまう。


「どうしよう……」


 清子きよことしてはこういう現象は事前説明と何かの能力の付与があるものだと思っていた。

 そこで彼女は相手の未知の言葉を理解していたことを思い出した。他に追加の能力は無いものか、と思ったところで目の前の空間が歪み何かの入り口が現れた。見た感じはただの穴というものだ。


「仕方がない。入るしかないわよね」


 頭の中でため息をつくと、清子はその穴の中へ足を踏み出した。


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※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。


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