キヨコとマーちゃん──異世界に拉致されたら変なトカゲと出会ってスニーキングで旅することになった

お前の水夫

第1話 拉致

※執筆に関して訓練中の身ですので、何かご指摘があればよろしくお願いいたします。


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 陰部いんべ清子きよこは幼少期の頃から少し変わった女性だった。

 清子は幼稚園でも、小学校でも、中学校でも、高校でも極端に目立たない女児で少女だった。異常と言っても良かった。


 目は横に長く、鼻も唇もバランスよく整っていても平坦な特徴の無い顔に見えた。

 髪は常に切り揃えて後ろで縛っていたが、総髪そうはつ茶筅ちゃせんまげの長いヤツのようにしか見えなかった。

 身長も170センチメートルはあり、女子としてはむしろ高い方だっただろう。

 それでも目立たなかった。


 成績は良かったが、教師は彼女に特別な期待を寄せようにも会話できる機会が非常に少なく、結局どういう生徒だったのかあまり記憶に残らない始末だった。

 某国立4年制大学に入学した際にだけ、清子は射撃部に入部し凄まじい成績を修めてから1年で辞めてしまった。

 彼女をしんだ先輩が、戻ってくれるように声をかけようとしたが、待ち伏せをしても清子の姿を確認することが出来なかった。

 結果として、姿が見えないが履修記録だけが存在する女子学生の噂は何年も残った。


 清子が何故そうだったのかについては彼女の祖父の実家に伝わるある武術を彼女が学んでいたからだとしか言えない。

 お爺ちゃん子であった彼女は4歳の頃より祖父から一族に伝わる武術を無意識的に学んだ。そして10歳頃からは意識的に学んだようなのである。


 その武術は明治初期に完成をみた後で、一族の縁者えんじゃにひっそりと伝えられた為にそれ以外の第三者による記録は無い。

 創始者である角野すみの雷雷軒らいらいけんは「武士の時代という太陽が沈めば、この武術も頭を垂れるしかないヒマワリの様な物だ」となげいて、それを『ひまわり流護身術』とだけ呼んだ。




 陰部いんべ清子きよこは大学を普通に卒業し、システムアウトソーシング企業に就職して1年と10ヶ月を過ごした。


「眠いわ~。昨日は動画なんか観るんじゃなかったわ。会社休みたいわ~。フゥワぅふぅぅぅ。職人さんもああいうのはアップするタイミングを考えてほしいわね」


 清子自身はどうにか普通のOLとして日々を享受していた。

 昨晩は有名動画サイトでよく観ている『刃物研ぎ系』の投稿者による『トラッカーナイフがとにかく切れないので頑張って研いでみる』を3回も観てしまい、その後は不覚にも眠れなくなるという初の経験をしたばかりだった。

 清子は『多目的』と『今売れてます』という文言に極端に弱い女子だったのだ。

 他人に見せられないアクビをかましながら、清子は支度をして今日も出勤する為にいつもの道を辿たどった。


 季節は春ということもあり、ブラウスに薄いジャケット、下はパンツルックにローヒールのパンプスで固めていた。

 色は全体的に紺色なのに、それでも彼女は風景と一体化するという非常識さを発揮した。

 髪型は学生時代から変わらぬ総髪そうはつ茶筅ちゃせんまげの長いヤツだ。


 清子は同僚との会話が極端に苦手で、PCやスマホなどのネットワーク機器の力と、比較的在宅ワークが多いという環境のお陰で、何とか今日まで会社で働くことが出来ていた。


「面倒だわ。今日が在宅勤務の日だったら、まだ寝ていられたのに……」


 そう独り言のような思考を3度ほど繰り返し、ようやく最寄り駅の踏み切りまで清子はたどり着いた。

 そして遮断機が上がり、そこを一歩踏み出した瞬間に開いているはずの無い穴に垂直に落ちた。


「んな!?」


 清子は驚きはしたが、精神的には0.4秒で立ち直り周囲を冷静に観察した。


「おお、成功したぞ。今回は女性だったのだな。妙に印象が薄いが……まぁ成功したのであるからな。非常に喜ばしいことだ。

ハンポロの奴も考えを改めるであろう。お前たち、あの女性をお連れしろ」


 清子の目の前10メートルほどにいた男は周囲のおそらくは部下であろう武装した男たちに指示を出した。


 男はパーマのかかった金色の短い髪をして同じ色のヒゲを鼻の下にたくわえ、中世の男性が着るジュストコールのような長めのコートを羽織っていた。

 おそらく綿であろうシャツやベスト、長いズボンは生地が厚ぼったく蒸れそうだ。全体的に緑色で統一されているような印象だった。


 男の指示に従い、茶色い革鎧を着て腰に直剣をさげた部下が2人、清子のもとへ近寄って片手をばしてきた。

 直剣に視線を当てていた清子はそこで初めて何か動作をしたらしい。


 男の部下たち2人の手首から血がき出した。




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※お読みいただきましてありがとうございます。この作品について評価や感想をいただければ幸いです。

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