お姉ちゃんと僕



(コンコン、というノックの音)


「ふふっ、どうぞー」(ドア越しの声)


(がちゃり、とノブを回す)

(小さく聞こえる冷房の音)

(街の声が微かに耳に届く)


「……今日も来てくれたんだ」

「ありがとう」(気持ち、小さめな声で)

「ううん? 別に、何も? 何にもないよ?」(誤魔化すように)


(足音)

(主人公、声に近付いていく)


「じゃあ、今日もお昼寝、しよっか……?」


(数秒経つ)

(主人公の発言パート)


「……え?」

「そう、なの……?」

「今日はその前に大事な話があるの……?」(困惑したような声)


(一瞬待って、)

(主人公の発言パート)


「うん、いいよ」

「聞かせて」(決意したような声音で)


(ベッドに腰掛ける)

(声が隣になる)

(数秒間の無音)

(主人公の発言パート)


「……うん、うん……。……そうなんだ。告白されたんだ。君が、ねえ……?」

「お姉ちゃんが知らない内に、そういうお年頃になっちゃったんだね!」

「このこのー!」(無理に明るくしているような風で)

「……それで? それで、どうしたの?」

「もう、手を繋いだりした? なーんて、ちょっと早いか」(空元気のように)


(やや沈黙)

(主人公の発言パート)


「…………え? 断っちゃったの?」

「ふーん……。そうなんだ……」

「じゃあ、他に好きな子がいるのかな? 君も隅に置けないなー」

「うーん、なんだか無性に腹が立ってきたぞ。撫で回しの刑だ!」

「ほら、よしよし……。よしよーし……」

「と、見せ掛けて、ぐしゃぐしゃぐしゃー!」(明るそうな声音で)

「あはは、髪の毛、ぼさぼさになっちゃったね。ごめんね」


(数秒間の沈黙)

(主人公の発言パート)


「……そっか。好きな子、いるんだ」

「いるよねえ、君も、そういう年齢だもん」

「じゃあ、私みたいな綺麗なお姉さんと遊んでると知られたら、嫉妬されちゃうねー?」


(やや、沈黙が続いて)

(主人公の発言パート)


「…………え?」

「好きな人って……私……?」(困惑した様子で)

「それって、本当……っ。ううん、いつから……!?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「『いつから、って言われても分からない』? 『ずっと昔から』?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「それだけじゃなくって……」

「いつも一緒にお昼寝している時も、ドキドキしてた、って……?」

「……好きな人との、添い寝だから……」


(一拍置き、)


「……う、」

「う、うう~~~っ!!」(これ以上ない恥ずかしさを、堪えるように)

「き、きみ……。生意気だぞ!」

「ぎゅーの刑だ!!」


(彼女が近付く)

(声が耳元になる)


「……え? これだと顔が見えない……?」

「いいの! 顔なんて見れなくても!」(とても恥ずかしそうに)


(少し間を置いて)

(主人公の発言パート)


「……本当? 本当に、私が好きなの?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「そっか……。そうなんだね……」

「……ずるいなあ……」

「年下の癖に、弟なのに、そういうところで男らしさを見せるんだから……」(嬉しいような、悔しいような、複雑な感情を滲ませながら)

「私なんて、ずっと言えなかったのに……」


(一拍置き、)


「……そうだよ」

「私も、君のことが好き」

「弟として好きだし……。きっと、このずっと一緒にいたい、って気持ちは、恋なんだ」

「その二つは矛盾しないよね。どちらも、持ってていいものなんだよね……?」


(数秒間待つ)

(主人公の発言パート)


「……そうだね。君の言う通りだね」

「一緒に考えていこっか」

「私達の恋が、どんな恋か」

「どんな関係性で、どんな風に想い合うのか」

「ゆっくり、二人だけで……。考えていこうね……」(安堵したように)


(しばしの沈黙)

(主人公の発言パート)


「……え!? お昼寝、するの!?」

「え、そりゃあ、一緒にお昼寝する為に来てくれたのは、そうだろうけど……」

「でも、心の準備ってものが……」(困惑した様子で)

「だってほら、君は弟だけど、もう、恋人でしょ?」

「恋人と寝るって……。そういうこと、でしょ?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「……違う? 『私がませてるだけ』って……うるさい、うるさい、うるさーい!」

「弟の癖に生意気だぞ! そういう君には、なでなでの刑だ!」


(彼女が移動する)

(声が正面からになる)


「ほら、なでなでー、なでなでー」(極めて上機嫌に)

「ぎゅーもしちゃうぞ! ぎゅーっ!」

「ふふっ、可愛いね」

「……こんなに可愛いのに、あんなに真っ直ぐ告白してくるんだから、ほんと、困っちゃうよね……」(恥ずかしそうに)


(少し待って、)


「よ、よし! じゃあ、お昼寝、しよっか!」(上ずった声で)

「えーっと……。どうやってたっけ……?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「え? いつも私が押し倒して、そのまま……?」

「私、そんなだっけ……?」(恥ずかし気に)

「えっと、じゃあ、失礼します……」


(二人がベッドに寝転がる)

(声がやや近くなる)


「……え?」

「腕枕、してくれるの……?」

「彼氏だから、って……。もう、何恰好付けてるの……!」(満更でもない様子で)

「で、でも、君が折角、勇気を出して言ってくれたなら、お願いしようかなあ……!」


(ごそごそ、と動く音)

(声の位置が変わる)


「……えへへ」

「なんだか、恥ずかしいね」(やや小さな声で)

「いつも、こんな風にお昼寝していたのにね」

「関係性が変わるだけで、彼氏彼女になるだけで、こんなに変な気持ちになるんだ……」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「え? 顔が赤い?」

「そ、そんなことはないよ?」(声が裏返りながら)

「だって、いつもしてることだし……。ね?」


(一拍置き、)


「じゃ、じゃあ……しよっか」

「あ、ああ! 今の『しよっか』は変な意味じゃないよ!?」(テンパりながら)

「“お昼寝”をね! お昼寝をしようね、って!」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「分かってる? あ、うん、そうだよね……」

「じゃあ、おやすみ……?」(困惑しっぱなし、という風に)


(しばし沈黙)

(外から子ども達の喧騒が聞こえる)

(クーラーの音が小さく耳に届く)


「は、恥ずかしいね、これ……」

「今までどんな風にしてたっけ……?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「……え? ぎゅーってされてた、って?」

「あ、うん……。そうだよね、ぎゅーだよね」(訳が分からない様子で)

「じゃあ、ぎゅー……」

「……っ……」

「…………、ん…………」

「っ、た、あーっ!!」(もう限界、という声で)

「無理だよ、無理無理! 恥ずかし過ぎるって!!」

「どうして私、あんなことできてたんだろう……?」

「もう、君が恋人なんだって、異性なんだって意識したら、恥ずかしくて仕方ないや」

「……それより、もう! どうして君は平気そうな顔してるの!?」(言葉に反して、機嫌が良さそうに)

「……ああ、そっか。君はずっと、こういう気持ちだったんだね……」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「……嫌じゃなかった? むしろ、嬉しかったって……!」

「どうして君はそう、恥ずかしいことを直球で言えるのかなあ!!」(恥ずかしくて仕方ないという風に)

「そんな君には、こうだ!!」


(唇と唇が触れ合う音)

(長い沈黙)


「……えへへ。これは予想してなかったでしょ……?」

「ほら、君、顔真っ赤になっちゃってるよ?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「え? 私もだ、って?」

「……そりゃそうでしょ……。私だって、はじめてだったんだから……!」(小さな声音で)


(やや間を空けて)


「……ねえ」

「もう一度、してもいいかな?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「……ありがとう」

「じゃあ、キス……するね」


(再び、唇が触れ合う音)

(長い沈黙)


「たっ、は~~~っ!!」(恥ずかしさが耐え切れない様子で)

「ダメだよ、これ!」

「恥ずかし過ぎるし、なんか変な気分になるし……!」

「もうダメ! キスはしばらく禁止!」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「う……。そうだけど」

「私が言い出したことだけど、禁止なの!」

「お姉ちゃん命令だからね!」(恥ずかしさを隠すように)

「でも……」

「もう一度だけ、してもいい……?」


(一拍待つ)

(主人公の発言パート)


「……うん、ありがとう」


(唇が触れ合う音)

(二度、三度)

(長い沈黙)


「……キス、しちゃったね」

「これから何度も、何度もしていこうね」

「そうして、お互いの気持ちについて、確かめていこうね」

「じゃあ……」

「お昼寝、しよっか……?」



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