【ナイショの話】



(秒針の音だけが聞こえる室内)


「……寝ちゃったの?」(囁くような声音で)

「……ふふ、珍しいね、君の方が早く寝ちゃうなんて」

「寝顔。本当に、かわいーんだ……」(愛でるように)

「よしよし。いい子だね、よしよし……」(言い聞かせるように)


(一拍置き、)


「ねえ、起きてる……?」

「本当に寝てるんだよね……?」(疑うような声色で)

「じゃあ、話しちゃおっかなあ……」


(一拍置いて、)


「……私ね、多分、君のことが好きなんだと思う」

「いつも、弟扱いして、からかっているけど……。多分、そうなんだ」

「最初はね、違ったんだよ?」

「ただの近所の子として……。三歳下の幼馴染として、可愛いなあ、って思ってたの」

「だから、ぎゅっ、ってしたくなっちゃった」

「だから、ぎゅー、って、しちゃうようになっちゃった」

「でもね……」


(一拍置く)


「私、恋とか、愛とか、分からないんだ」

「……ふふ、そうだよね。私だってまだ、子どもだしね」

「でも、思うんだ」

「君がこうして、ずっと私の傍にいてくれたらなあ、って……」

「こんな時間がずうっと、続けばなあ、って……」

「でもきっと、君はいつか、別の人を好きになっちゃうんだよね」

「そうして、私から離れていくんだ」

「私だけの弟じゃなくなっちゃうんだ」

「ううん、そうじゃなくても、こんなの変だって、いつかは気付くよね」

「ひょっとして、もう気付いてるかな?」

「恋人同士でもないのに、一緒にお昼寝してさ……。変だよね」

「でも、」(やや涙声で)


(数秒置いて、)


「でも、私だけの弟だったらなあ、って思うの」

「ずっと一緒にいてさ、こうしてお昼寝して……。そんな毎日を過ごす」

「そんな、私だけの弟……」

「だけど、それだけじゃないの」

「恋とか愛とか、分からないから言えるよ」

「私は君のこと、本当の弟みたいに大好きだけど……」

「それは、恋愛感情と矛盾しないよね」

「弟みたいに好きだから……、」

「……君のことが、好きなんだよ」

「大好き……なんだ……」

「本当に……。好きなの……」


(数秒、沈黙)


「君はきっと、すぐに大人になってちゃう」

「初恋を経験してさ、私に『好きな人ができた』って報告してくるの」

「無邪気に、何も知らないで」

「私はそれを応援するの」

「ただの近所の、お姉さんとして」

「分かってるの……。そうなるのは、分かってるんだよ……」(絞り出すような声で)

「……でも、好きなの……」


(また数秒、沈黙)


「……ねえ……」

「……もし私が告白したら、君は答えてくれる?」

「なんて、眠ってる間に聞くのは、卑怯だよね……」

「私は告白もできない、臆病な女の子なの……」


(数秒経って、)


「私も寝ないとね! 折角、お昼寝に付き合ってもらってるだし!」(自身に言い聞かせるように)

「……おやすみ」

「……忘れないで……」

「私は君のこと、大好きだってこと……」



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