あたしは猫
あたしは猫。気儘にふらふら歩む猫。
悲しいのも、切ないのも、痛いのもイヤ。
死ぬ時は独りがいい。
「ここまで来れば大丈夫かな」
路地裏に入り、周囲を見回す。時々独りになりたくて家から脱け出すの。
あたしは学生。縛ろうとするルールだらけ。きっと大人になってもルールだらけ。
独りになりたくても社会が協調性ってやつを求めるんだ。あたしも解ってはいる。
独りで生きられる世の中じゃない。
食べることも寝ることも遊ぶことも世界に独りだと出来ないこと。
協力し合うから世の中は発展しているんでしょう?
夜の街はとても静かで独りになれる気がするんだ。
人間は冷たいのに温かい。
冷たいだけなら嫌いになれる。温かいだけなら大切さに気付かない。
独りになりたがっても、人間を嫌っているわけじゃない。
夕方の言葉を思い出す。
「なぁ、付き合わん?」
友達以上恋人未満なクラスメートが真面目な顔をして告ってきた。
「もし断るんなら、この関係は終わりにしようや。生殺しなんて俺には堪えられんのや」
あたしの性格を知っているから、半端なことは言わなかった。今の状態をキープ出来るなら「付き合うことは出来ない」って言っただろう。
付き合うってことは、悲しいのも切ないのも胸が痛いのも温かさも全ての感情に捕らわれてしまいそう。
気儘がいい。気儘でいたかった。きっと彼は大切にしてくれる。そういう男だって知ってる。
甘やかされたら嫉妬と独占欲が強くなりそうで、あたしは醜くなることが怖い。
「でも、」
答えはもう見つけている。
あたしは猫。気儘に生きる猫。
浮気なんてしたら愛想をつかす。堪えられない想いをさせたら、ふらりといなくなる。
彼は最期まであたしを飼い慣らせるだろうか。
あたしは気儘だから大変だよ?
「だって好きなんやもん」
そう言った彼の笑顔が頭に浮かぶ。
さあ、家へ帰ろうか。
自分が思う猫のようでありたい。
ショートストーリー詰め合わせ 音央とお @if0202
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