12月25日の朝

何歳だったかも覚えていない小さな頃、障子を開けると一面の白が見れた。

それをホワイトクリスマスというのだと知ったのは、それから何年も後。


帽子も手袋もせず、上着も羽織らずに外へ飛び出した。確か母には怒られたけれど、それよりもちゃんとサンタクロースが来てくれたことが嬉しくて、母にプレゼントを見せびらかした。

純粋にクリスマスを楽しんでいたあの頃。12月25日に悲しい想いをするなんて知らなかった。


私の目の前にあるのはピンクのカーテン。実家の障子じゃない。

家を出てから二度目のクリスマス。外には白さが見当たらない。


雪とプレゼントに喜んだあの日が遠い。


キッチンには手付かずのローストチキンと、少し欠けた苺のケーキが残っている。


昨日、数口だけ食べたケーキを朝食代わりにしてしまおう。

お湯を沸かしながら、昨日の出来事を思い出す。


……彼は来なかった。


着信履歴の一番上には彼の名前が残っている。

昨日最後に掛けた電話。二人の関係にとっても最後になってしまった電話。


なんとなく終わりは感じていた。まさかイヴに別れ話とは思わなかったけれど。

泣かないのか、泣けないのか分からない。

涙を流すことなく一晩が明けた。


沸騰を知らせる音に立ち上がると、玄関の呼鈴までもが鳴った。


「どちら様ですか?」


問いかけると「宅配便です」という答えが返ってきた。簡単な挨拶とサインをすれば、両手で抱えるような大きな荷物が家の中に増えた。


馴れ親しんだ住所と母の名前が「早く開けて」と言っているように見えた。

スーパーに置いてあった箱だろうけど、丁寧にガムテープを剥がす。


「……もしかして、クリスマスプレゼント?」


野菜やお米が出てくると思ったのに、出てきたのは真っ赤な包み紙。緑のリボンと合わせることでクリスマスカラーになっている。


緑をほどき、赤を剥がす。

雪のように真っ白なコートと手袋が包まれていた。

便箋に記された言葉を読み上げる。


【覚えていますか?あなたはホワイトクリスマスに喜んで、薄着で外に飛び出したことがあったのよ。さすがに同じことは繰り返さないだろうけど、忙しさに気を取られて風邪をひかないようにね。あなたは周りが見えない状況になると子どもみたいになるから、また薄着で過ごしているんじゃないかと心配です。ちゃんと厚着しておくのよ】


昔からよく風邪をひいた。

悩むと周りが見えなくなって、自分が寒さを感じていることすら気付かない。


もう子どもじゃない……と言いたいけれど、手紙を読み終わると、くしゃみが飛び出した。

母の心配どおり、暖房も付けずに薄着でいたようだ。

貰ったばかりのコートを羽織ってみる。


「暖かい…」


鏡の前に立って初めて気づいた。

うっすらと涙の跡があったことを。眠っている時に付いたのかもしれない。


「本当に周りが見えてないや」


滲む視界。

クリスマスになるとあの雪の朝を思い出す。色褪せることのない記憶。

サンタクロースと母の温かさ。


「クリスマスの朝は、なんで温かいんだろう」


涙を流すけど、悲しくないよ。

あの頃感じた温かさがあるから。

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