第3話 恵琉の計画③

「ジリリリリリ」


 恵琉は目覚まし時計の音を止めるために、ベッドわきに手を伸ばす。何か、自分の存在意義についての大事な夢を見た気がする。目覚まし時計を止めて部屋を見渡すと、カーテンから太陽の光がこぼれていた。


「とりあえず、起きて仕事に行く支度でもするか……」


 今日は日曜日だが、恵琉の仕事は接客業であり、休日はお客さんが来て売り上げも多いのでまず休みになることはない。ベッドの上で大きく伸びをして、仕方なくパジャマから仕事着に着替える。恵琉の店では、自社の洋服を仕事で着用することになっていた。社割で安く買った七分袖のブラウスに黒のアンクルパンツ履いて自室を出る。


 彼女が働いているのは、全国チェーン展開をしている「ゆにーく」という店で、トップスやアウターはもちろん、下着などの商品も売っている衣料品店だ。土日は安売りをすることが多く、休日の今日はお客が多いことが予想された。



 リビングで朝食のトーストされた食パンをかじりながら夫の幸の事を考える。


 恵琉は自分の計画を果たすために、今の夫と28歳のときに結婚した。夫の名前は富田幸(とみたゆき)で同い年。180cmの高身長で、色白の細身の幸薄系のイケメンである。仕事は薬剤師で薬局に勤務している。名前に幸せがついてはいるが、なぜか他人に不幸そうだと言われてしまう残念な男だった。しかし、それが恵琉の中でとても重要なことに思えた。不幸体質の男には不幸を吹っ飛ばすような男をあてがいたい。頭の中はいくつになっても腐敗が止まることはなかった。


 ちなみに恵琉は165cmという、女性にしては高めの身長に色黒の肌、切れ長の瞳で黒髪ショートヘア。自分の容姿についてはかわいい系ではないことは自覚していたが、それでも夫の幸はそんな恵琉と結婚してくれたのだから、少しくらいは見た目をきれいにしようと、最低限のスキンケアや化粧は頑張っていた。


 夫のいない家で身支度をすませて外に出ると、空は雲一つない快晴だった。こんな行楽日和に仕事をするなんて。そう思いながらも恵琉は仕事にむかった。

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