宇宙人からの手紙

 宇宙人がいなくなったあの日から数日。

私は新しい仕事を探し始めた。

 しかし、これがまたどうにも上手くいかなくて、初めての就活を思い出した。

 一次の書類審査は問題ないのだが、いざ面接となるとどうも言葉が出てこなくなってしまうのだ。

度重なる面接の失敗で反省と疲労とで尚更話せなくなって、結果どんどん悪化してしまう。悪循環だった。

そうなると悲しいことに、当然私を雇ってくれるような会社など一つも無くなってしまうのだ。

 だから大切な一度目の就職で私はあんなブラック企業に就職してしまった。

 もう仕事を選べるような余裕はあのときの私にはなかった。

 なにもうまくいかない、なんて自暴自棄になって手当たり次第、しらみつぶしに応募しては面接で撃沈する。

その繰り返しだった。

 そしてついに決まった就職先。

出勤するたびに活気が失われていくオフィスと自分の心。

今日もこき使われるんだと思えば思うほど自分の瞳から光が消えていくのがわかった。

 そんな経験から学んだ私は、今回の就活がどれだけうまくいかなくても自暴自棄になることはないよう気をつけていた。

 だが、それだとやっぱりどこにも就職できそうにない。

 だけど働かないとブラック企業時代に貯めて来た、労働の割に合わない少ないお給料からの貯金も底をついてしまう。

 仕事をやめて心が軽くなったのは一瞬で、またあのときと同じように悩みが尽きない生活に後戻りしてしまった。

 まあたしかに寝不足などの身体的な問題はだいぶ解消されたが、ここまで就活がうまくいかないと精神的な健康が害されているような気がする。

 諦めたいけど、全部放棄したいけど。

諦めるわけにもいかない。

 ああ、宇宙に飛んでいってしまいたい。


 よし、こんなときこそ散歩だろう。

そう思って玄関から出た。

清々しい風に、なんとなくデジャブを感じながらラフな格好で歩く。

 アパートの階段を降りたその目の前には郵便受けが羅列されていた。

 そういえば今日はまだ確認していない。

何気なくのぞいた自分の部屋番号のその郵便受け。

いつも特になにも入っていないか、もしくはよくわからないチラシやら広告やらが入っていることがたまにあるかだった。

 でも今日はいつもと違う何かが、そこに入っていた。

 素人から見ても明らかに高級そうなクリーム色の封筒に、ワックスのようなもので封がしてあった。

 ファンタジーアニメでよく見るような手紙に少しワクワクしながら、結局それを手にして部屋まで戻った。

 ところで、この手紙は一体なんだろう。

自分の部屋までの階段を登りながら、部屋番号の間違いだったらとか、文句が書いてあったら、なんて色々考えてしまった。

 部屋のソファに座って、一度その封筒をじっと観察してみた。

 やっぱり明らかに高そうな雰囲気で、ワックスには金色の箔が押されたどこかの家紋のようなものが描かれている。

 私はドキドキしながらそのワックスに手をかけて、なるべく封筒を破かないように、慎重に慎重に剥がした。

封を開けるだけで多分二分はかかっただろう。

 やっと開いた封筒から覗いたのは、封筒と同じ色をした厚めの紙だった。

 それを丁寧に取り出し、ついに開いてみた。


 拝啓 橘えりか様


風に揺れるすすきに風情を感じる……なんて、やっぱりなんだかむず痒いので丁寧な挨拶はやめます。


元気ですか。

僕はあのとき拾ってもらった宇宙人です。


まず、あなたに嘘をついていたことを謝らなければなりません。


ごめんなさい、実は僕は宇宙人ではありませんでした。


本当は、家出した東雲財閥の次男でした。

名前は東雲結斗といいます。


バレたらいけないと思って、名前も隠したし、あのとき救急車も断りました。


僕があのゴミ捨て場にいたのは、子供みたいな幼稚な理由でした。


僕は次男なので、もちろん長男がいます。

うちは長男がいちばん大切にされるような家でした。


兄は何事にも優秀な成績をおさめ、すべてをそつなくこなす、すごい人です。


それに比べて僕はいつも兄未満で、なにをやっても平均でした。


周りの人が僕と兄を比べている。

その目に耐えられず、家出をしました。


ですがやはり行くあてもなく、あのゴミ捨て場で力尽きてしまいました。


そこであなたが僕を見つけてくれましたね。


そこからあなたと過ごした数日間、僕は夢を見ているようでした。


何をするにも二番目に回されていた僕と、なんでも一緒にやってくれましたね。


ときにはお風呂に先に入らせてくれることもありました。


きっと、あなたにとっては何気ない小さなことなのでしょう。


僕がこぼしたカップ焼きそばの麺を見て、僕にあなたの分を分けてくれたのが本当に嬉しかったのです。


対等に扱われて、すごく幸せでした。


だから驚いてしまいました。


あなたのような優しい人が、ブラック企業に勤めていて、耐えられず辞めたと聞いたときに。


あなたのような人材はきっとどこも欲しくてたまらないはずなのに、と。


そこで僕は決めました。

兄よりも価値は下がってしまいますが、父の小さい方の会社を継ぎます。


そして、あなたをこの会社の秘書として迎え入れようと考えています。


決して悪い扱いはしません。

本日の夕方、少し日の落ちた頃にお話しに行きます。


準備をして待っていてください。

良いお返事が聞けるのを楽しみにしています。


 敬具 東雲結斗



 言いたいことはもちろんたくさんあるのだが。


 私、すごいお金持ちにカップ焼きそば食べさせちゃった。

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