さよなら宇宙人

 それから三日間、宇宙人はうちで過ごしていた。

いい加減宇宙に帰らないものかと思っていたが、きっと宇宙人にも何か事情があるのだろう。

そう考えた私は、自発的に帰ろうとするまで待つことにした。

 「そういえば、何故平日も自宅にいるんですか。」

 オムライスのケチャップを口の端につけながら宇宙人は私にそんな質問を投げかけた。

 たしかに、それは気になるところかもしれない。

 「仕事やめたばっかりなの。あまりにもブラックで、耐えられなかったから。で、まだ仕事探す気にもなれないの。あれは気分転換の散歩だよ。」

 ブラック企業をやめてきたという発言にすこし驚いた表情を見せた宇宙人は、また新しい質問を口にする。

 「なぜ探す気にならないんですか。」

 だって働きたくないし。とはさすがに言えないので、ちょっと考えながら話してみた。

 「だって、面接とか大変だし、またブラック企業かもしれないから。なかなか気が進まないの。」

 全部本当のことだ。

 私の言葉に宇宙人は納得した様子で、またオムライスを口に運んだ。

ちなみに口の端にはずっとケチャップがついている。

所作はきれいなのに、もったいない。

 「ねえ、ケチャップついてるよ。」

 「え、どこですか。」

 鏡を差し出して、ここ、と合図した。

私の行動になぜか不服そうな顔をする宇宙人。

なんでだ。教えてあげたのに。

 そうやって今日も過ごしていた。

いつも通りに、探していた。なにも変わってなかった。

 でもそのときは突然くるのだ。

夜、事件は起こる。

 「ねえ、私もう寝るけど。宇宙人は寝ないの?」

 どこか申し訳なさそうな顔をして宇宙人は答えた。

 「……すみません、もう少し起きていたいです。」

 別に、宇宙人が起きている分の電気代くらい気にしないから謝らなくてもいいのに。と見当違いなことを考えながら私は、ならおやすみ、なんて口にした。

 違うのだ。待っていたのだ。

宇宙人は、私が眠りにつくのを待っていたのだ。


 真夜中。頬にあたたかくて大きな手の感触がした。

 私は、開いているかわからないようなまぶたの隙間からそれを見た。

 「僕、立派になってあなたを迎えに来ますから。」

 まるで自分に言い聞かせるような、それでいて私を安心させようとしているような言い方をした。

 額に、ただ一瞬だけ。

柔くあたたかく触れたものを最後に、私はまた眠りに落ちてしまった。

 もしかしたら、ただの夢だったのかもしれない。


 おはよう。そう言いかけて気づいた。

この時間にはソファに座っているはずの宇宙人がいなかった。

 私は、彼が宇宙に帰ったのだと察した。

たった数日の関係だったが、なぜかものすごく寂しさを感じ、心に虚しさが張り付いた。

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