拾ってしまった宇宙人

 お風呂場から聞こえるあたたかいお湯の音。

 やってしまったと思いながら自分の行動を振り返る。

 おにぎりをあげて、全部食べ終わって。

そのあと、私の何気ない冗談まじりの質問で彼が宇宙人であることが判明した。

 でも疑わなかった。

だってコンビニのおにぎりであんな反応するなんて宇宙人以外に何があるっていうの。

 行くあてなんてないというから、見ていられないくらいぼろぼろだったから、家に上げてしまった。

 いくら宇宙人だといえ、多分誘拐まがいなことをしてしまっている。現在進行形で。

 それは一旦置いておいて、ゴミ捨て場にいたときのまま私の家でくつろいでもいいと言えるほど寛容な心を私は持ち合わせていないので、とりあえずお風呂に入ってもらった。

 洋服に関しては、この前弟が置いていったものを置いておいた。

 テレビでは有名なお昼の番組がやっている。

今まで絶対に見ることのできなかった、平日のみ放送する番組だ。

これが見れるの、結構嬉しいんだよな。

 まだ始まったばかりのようで、MCが自己紹介をしていた。

 少し早いけど、お昼を食べようか。

あれ、お昼っていっても今カップ焼きそばくらいしかないのではないだろうか。

宇宙人はカップ焼きそばも食べることができるのだろうか。

 がちゃ、扉の開く音がした。

 「お風呂、ありがとうございました。」

 おお、これはまた、巷でいうイケメンが増したのではないだろうか。

 泥やらゴミやらがまとわりついていた体と髪からは清潔感のある香りがするようになり、ぼさぼさだった金髪はさらさらふわふわの優しいクリーム色になった。

 お風呂の偉大さを改めて知った。そこじゃないのはわかってる。

 「おかえり。ご飯、カップ焼きそばしかないんだけど大丈夫かな。」

 それしかないからしかたないよな、と考えながら彼の言葉を待つ。

 「カップ焼きそば? ってなんですか。」

 ああそうだった、こいつは宇宙人だ。

 「とりあえず、一緒に作ろうか。」

 私の言葉を聞いた宇宙人が、なんだか少し嬉しそうな顔をしたような気がした。


 「はい、お湯沸いたから作るよ。おいで。」

 不思議そうな顔をした宇宙人が私のいる台所までやってくる。

 私は半分くらい蓋を開け、線までお湯を注いだ。

それを見よう見まねで頑張っている宇宙人を見て少し笑ってしまった。

 「蓋、ちょっと開けすぎじゃない?」

 「えっ、蓋を開ける幅までこだわるんですか。」

 こだわるというか、湯切りのときに失敗しないようにするための常識だが。

まあ宇宙人だ。どうなるか少し見ておこう。

 宇宙人が作ったカップ焼きそばの出来が少し楽しみなのは秘密だ。


 「ほら、三分経ったよ。湯切りしよう。」

 「湯切り?」

 ここを開けて、と宇宙人に指示しながら湯切りの作業を始める。

 丸い穴がいくつか。

私は蓋を押さえて傾けて、お湯を捨てた。

 宇宙人はまた見よう見まねで頑張っていた。

すごいしかめっつらで手元はたどたどしい。

そして勢いよく傾けて____________

 でろん、と開けすぎた蓋から麺が半分くらい飛び出した。

 「うわあああ!!」

 迫真の叫びに私は笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。

 「っちょっと! なんで教えてくれなかったんですか!!」

 隣で大笑いしている私を見て大声で訴える宇宙人にまた笑いがこみ上げてくるが、これ以上笑ったら怒られてしまいそうだ。

我慢して答えた。

 「ごめん、できるかなと思って。火傷してない?」

 していない、と言った宇宙人に少し安心して、自分の分を少し分け与えた。

 そうするとなんだか感動したような表情でありがとうと言った宇宙人に、今度は私が不思議な顔を見せる番だった。

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