雪女と巳之吉
昔々あるところに巳之吉という青年がいた。幼少期に事故で両親を失った彼は2歳下の妹と一回りほど年の離れた姉と3人で生きてきた。そして巳之吉が15歳になる頃、姉は巳之吉と妹の学費を稼ぐため地元を離れ都へ出稼ぎに出た。巳之吉も生活費を稼ぐため茂作という男のもとで樵の見習いを始めた。
それから3年。巳之吉の姉が龍宮城で敗れて島流しになったという話が山伏によりもたらされた。龍宮城といえば毎月のように開かれる超ハイレートポーカーの試合を主催しており、無期限の強制労働を条件に参加する者もいるようなクレイジーな場だ。ここで働いていた巳之吉の姉は銀食器の窃盗容疑をかけられ、龍宮城の試合に無理矢理参加させられてしまったようだ。
巳之吉は姉を救うため龍宮城へ向かった。金もコネもない青二才の巳之吉は門前払いされそうになりながら何とか乙姫とのアポイントメントを取り付けた。後日、茂作と共に龍宮城を訪れた巳之吉は、約1億円という高額な試合の参加費と年齢制限という厳しい現実を突きつけられた。二十歳に満たない者は、規定により参加が認められないという。それでも諦めず、何とか乙姫に食い下がる巳之吉。「そなたの気持ちも分からなくはないが、年齢だけはどうにも」と乙姫が呟くと、「それでは私が彼の代わりに出るというのは可能か」とそれまで黙っていた茂作が口を開いた。「構わないが、負ければ強制労働だぞ」と乙姫。巳之吉は茂作にそんなことをさせられないと説得するが、子どものいない自分にとって息子同然の巳之吉が困っているのに何もしない訳にはいかないと茂作は引き下がらなかった。
試合には茂作の他に、龍宮城の主である乙姫、お雪と呼ばれる氷のように冷静な女、不作にあえぐ故郷を救うために来た農村の男、侍に灰をかけて激怒させた翁、やたら歯が白いポルトガル語の通訳、和紙を扱う豪商の男、龍宮城に囚われた兄を救いに来た漁村の女の計8人が参加。試合はテキサスホールデムで行われ、チップがなくなった者から脱落し、残り3人になるまで退出することは出来ないというルールだ。
通訳の男と豪商はここの常連らしく、かなり大胆に賭ける。一方翁は侍から強引に参加させられており命がけのため、空気のような存在だ。
まず通訳の男が乙姫に勝負を仕掛け脱落したが、雇い主の金を着服して毎回のように参加しているというから驚きだ。その後しばらく様子を見ていた茂作だったが、キングのスリーカードを完成させたところで勝負に出た。他のプレイヤーがフォールドしていく中、お雪がコール。ターン、そしてリバーが開かれたが、お雪は淡々とコールを続けた。そしてショーダウンを迎えた。彼女のハンドはストレート。大半のチップを失った茂作は発作を起こしテーブルに崩れ落ちた。思わず立ち上がる巳之吉を見て思わず一目惚れしてしまう雪女。すぐにスタッフが駆け寄り、茂作は担架で部屋の外へ運び出された。珍しく動揺を隠せないお雪の様子を愉しむ乙姫。
2日後。まだ意識が戻らない茂作の見舞いに来た巳之吉。早朝にもかかわらず先客の女性がいた。彼女はお雪と名乗り「このような目に合わせたのは私だ」と告げた。巳之吉はお雪を責めることはせず、これまでの経緯を話した。龍宮城で既に心を動かされていたお雪は巳之吉の姉を助けることを約束。
それから約2ヶ月後。巳之吉の姉は無事に帰ってきた。心的外傷後ストレス障害を発症したため通院を余儀なくされたが、通院費と生活費さらには巳之吉と妹の学費までお雪が負担した。その後高校を卒業した巳之吉はお雪と結婚し故郷へ戻った。それから数年。巳之吉の姉の子を引き取ったお雪と巳之吉は2人の子宝にも恵まれ、樵を引退した茂作を含め6人で仲良く暮らしている。めでたしめでたし。
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