まさかり担がされた金太郎

何処にでもいる平凡な才能しかない男だが、両親からの期待は半端なものではなく、幼少期からスパルタとも言える教育を受けてきた金太郎。学習塾、英会話、ピアノ、乗馬、水泳、体操、テニス。休日でも休みはなく、常にまさかりを担がされてきた。しかしどれだけ鍛えても凡才は天才にはなれずただの中学生になった金太郎。クラスでは友もなく、イジメられて3年間を過ごした。


そして二十歳になった金太郎。ある別れさせ屋の存在を知り、中学校時代のイジメっ子に復讐することを思いつく。その別れさせ屋は、金さえ払えば特定の人の社会的な評価を下げることができるという。ただしその費用は約1億円と高額。金のない金太郎に、別れさせ屋は龍宮城という非合法のポーカールームを紹介する。試合の参加費は約1億円。参加費を用意できぬ者は、店から借りることも可能だが、もし敗れた場合は無期限の強制労働など過酷な条件を飲んで参加するというシステムだ。


別れさせ屋に連れられて龍宮城に辿り着いた金太郎。若い女性と話をした経験が乏しすぎる金太郎は乙姫のあまりの美しさに悩殺され、七並べとババ抜き以外のカードゲームは全くやったことがないにもかかわらず簡単に契約書にサインしてしまった。


試合には金太郎の他に、龍宮城の主である乙姫、宇佐美というギャル、少年のように背が低く一寸法師の愛称で親しまれている男、侍が飼うヨウムの舌を切った媼、羽根つき界のエースと若きホープ、不漁にあえぐ故郷を救うために来た漁村の男の計8人が参加。試合はテキサスホールデムで行われ、チップがなくなった者から脱落し、残り3人になるまで退出することは出来ないというルールだ。


羽根つき界のエースと若きホープはここでの勝負は初めてらしいが、かなり大胆に賭ける。一方媼は侍から強引に参加させられており命がけのため、空気のような存在だ。

まず羽根つき界のホープが乙姫に勝負を仕掛け脱落した。その後乙姫と一寸法師が順調にチップを増やしていく中、金太郎は残り3500万円。ほとんど勝負していないがアンティが非常に高く設定されているため、かなり失ってしまった。そんな中、空気の媼が勝負に出た。よほど強いハンドなのか余裕が見える。乙姫らが降りる中、宇佐美と漁村の男がコール。ターンカードが追加されたところで漁村の男がフォールドしたが、宇佐美はオールインを選択。勝利した宇佐美は媼からかなりのチップを獲得した。窮地に追い込まれた媼は次のゲームで勝負せざるを得ず、あえなく敗退。残り6人。


それから半月。金太郎は今日も何処かの島で負け犬たちと汗を流す。発情した獣のような男たちから身を守るには一人でも仲間が多いほうがいいのだが、ここでも引っ込み思案の金太郎は友達を作れずにいた。あまりの恐怖から不眠症を悪化させた金太郎だったが、幸いなことに野獣たちの好みではなかったようで見向きもされなかった。


この島から脱出する方法は2つ。親兄弟や友人が龍宮城で賞金を稼ぎ借金を代わりに返済する方法と4年に一度開かれるポーカーの大会だ。ポーカー大会は労働者に希望を持たせ発狂者を減らす目的で開かれるため、上位3位までに入れば龍宮城への借金返済が免除され島から脱出できるという話だ。ただこの島には数え切れない程の元ギャンブラーがおり、中には世界大会で活躍したことのある者までいる。金太郎の実力を考えれば絶望的だった。


しかし金太郎は目を覚ました。まさかりを担がされ、お馬の稽古をさせられてきた男の才能がついに開眼したのだ。まさかりは誰かに担がされるものではなく、自らの意思で担ぐものだと気づいた金太郎は、世界大会に出場経験のある者に自ら弟子入りを志願するなど意欲的に勉強を重ねた。その結果、わずか9年程でこの地獄の島から脱出する切符を手にすることが出来た。そして別れの日が来た。勉強会の仲間たちから多くの手紙を託された。彼らとの別れがこれほどエモーショナルなものだとは思っていなかった金太郎は思わず涙した。


船内で金太郎と同じ脱出組の農村男が話しかけてきた。根暗でシャイな金太郎とは対象的に気さくな男だ。そして港に到着。行く宛もない金太郎は彼に誘われて龍宮城へ向かうことに。手紙を出すのだという。仲間から受け取った手紙のことなどすっかり忘れていた薄情者の金太郎。龍宮城へ到着すると農村男が乙姫から呼び止められた。しばらくして部屋から出てきた農村男はすっかり生気を失っていた。そんな彼を心配するでもなく、自分も乙姫から呼ばれることを密かに期待していた金太郎。何もなかった。


それから1年。金太郎は龍宮城近くの安アパートにいた。農村男らと肉体労働をして生活費を稼ぐ日々。めでたしめでたし。

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