シン・桃太郎
@kondohmusashi
桃太郎と乙姫
昔々あるところに、40歳を過ぎた夫婦が暮らしていた。
ある日いつものように、夫は山へ柴刈りに、妻は川へ洗濯に向かった。妻が洗濯をしていると、川から桃が流れてくるのが見えた。その後2人は子供を授かる。第二子は男児で「桃太郎」と名付けられた。
それから20年ほどが経ったある年、桃太郎の住む村の田畑では記録的な高温と干ばつにより深刻な不作に見舞われていた。年貢を納める期日まで2ヶ月弱。このままでは年貢を納められない。最悪の事態だけは避けたい村人たちは米の代わりに現金を用意することに。
そこで村人たちが白羽の矢を立てたのは畑仕事をサボりイカサマポーカーばかりしている弥太郎と高学歴の桃太郎だった。桃太郎は幼馴染のすずと家族と村人のため、弥太郎は私利私欲のため、村人たちが集めてくれたなけなしの現金を手に、賞金を求め旅立つのだった。
かなりの現ナマを持ち歩くことになるため、桃太郎と弥太郎は旧知の山伏から紹介された犬飼、猿渡、雉尾の3人を用心棒として雇うことに。
その後桃太郎一行はモグリのポーカールームを転戦し、トーシローのカモを見つけては弥太郎のイカサマと桃太郎の腕でシコシコ稼いでいく。
そんな中、山賊が集まるモグリのポーカールームで弥太郎のイカサマがついにバレてしまう。用心棒の活躍もあり命からがら逃げ出した2人だが、せっかく稼いだ金のほぼすべてを奪われてしまう。どこまでも無責任な弥太郎は村のことなど忘れて逃亡することを提案するが、桃太郎は村のみんなを、そして何よりすずのため最後まで諦めないと宣言。弥太郎は去った。「お供したいのは山々なのですが」などと心にも無い事を言いながら犬飼らも去っていった。
年貢の期日まで残りわずか。一人残された桃太郎は最後の手段として龍宮城という館で毎月のように開かれる超ハイレートポーカーの試合に出場することに。試合の参加費は約1億円。参加費を用意できぬ者は、店から借りることも可能だが、もし敗れた場合は無期限の強制労働など過酷な条件を飲んで参加するというクレイジーな試合。この試合は侍なども多く観戦するため、出場資格がかなり厳しいことでも知られていた。何のつてもない文無しの桃太郎だったが飛び込みで乙姫に熱い想いを語ると、直前に空きが出たこともあり参加が認められた。
試合には桃太郎の他に、龍宮城の主である乙姫、お雪と呼ばれる氷のように冷静な女、茂作という樵の男、侍に灰をかけて激怒させた翁、やたら歯が白いポルトガル語の通訳、和紙を扱う豪商の男、龍宮城に囚われた兄を救いに来た漁村の女の計8人が参加。試合はテキサスホールデムで行われ、チップがなくなった者から脱落し、残り3人になるまで退出することは出来ないというルールだ。
通訳の男と豪商はここの常連らしく、かなり大胆に賭ける。一方翁は侍から強引に参加させられており命がけのため、空気のような存在だ。
まず通訳の男が乙姫に勝負を仕掛け脱落したが、雇い主の金を着服して毎回のように参加しているというから驚きだ。次に姿を消したのは茂作だった。お雪により大半のチップを失った茂作は発作を起こしテーブルに崩れ落ちたのだ。その後乙姫とお雪が順調にチップを増やしていく中、桃太郎は残り3500万円。ほとんど勝負していないがアンティが非常に高く設定されているため、かなり失ってしまった。そんな中、空気の翁が勝負に出た。よほど強いハンドなのか余裕が見える。乙姫らが降りる中、桃太郎と漁村の女がコール。ターンカードが追加されたところで漁村の女がフォールドしたが、桃太郎はオールインを選択。勝利した桃太郎は翁からかなりのチップを獲得し、8000万円近くまで増やした。窮地に追い込まれた翁は次のゲームで勝負せざるを得ず、あえなく敗退。残り5人。
それから半月。桃太郎は今日も何処かの島で負け犬たちと汗を流す。ここであの漁村娘の兄に出会った。頬はこけ、あばら骨が浮き上がるなどひどく痩せている印象を受けたが、希望だけは捨てていなかった。そんな男に妹が龍宮城で敗れたことなど伝えられない心優しき桃太郎。
この島から脱出する方法は2つ。漁村の女のように龍宮城で賞金を稼ぎ借金を返済する方法と4年に一度開かれるポーカーの大会だ。ポーカー大会は労働者に希望を持たせ発狂者を減らす目的で開かれるため、上位3位までに入れば龍宮城への借金返済が免除され島から脱出できるという話だ。ただこの島には数え切れない程の元ギャンブラーがおり、中には世界大会で活躍したことのある者までいる。桃太郎の実力を考えればかなり厳しい戦いになることは明白だった。
それから数ヶ月してあの通訳の男も島に送られてきた。彼は桃太郎を見つけると「やり過ぎてバレちゃったよ」などと言いながら白すぎる歯を見せた。相変わらず軽い男だ。やや信用できない男ではあるが、発情した獣のような男たちから身を守るには一人でも仲間が多いほうがいい。ちなみに通訳男の話では、あのあと年貢を納めきれなかった桃太郎の村は全国的な不作ということもあり何のお咎めもなかったらしい。
桃太郎と通訳男が島に来てから初めて出場した大会は3人ともベスト16にも残れないという散々なものだった。2度目の出場となった漁村男も全く奮わなかった。さすがに心が折れかける漁村男と通訳男だったが、桃太郎だけは決して諦めてはいなかった。そもそも彼の辞書に絶望という言葉はないのだ。どんなに絶望的な状況でも希望の光だけが彼を照らしているようだった。そんな桃太郎に感化された2人も次回のポーカー大会を目指して日々精進した。そして大会の日を迎えた。
まず通訳男が散った。あまりにも弱すぎた。結局白すぎる歯は何の役にも立たなかった。漁村男はかなり善戦しベスト16まで進出したが、やはり散った。残るは桃太郎。なんと彼は3位決定戦まで残っていた。そして激戦の末、島を脱出する最後の切符を手に入れたのだった。
別れの日が来た。漁村男からは妹への手紙を、通訳男からは年老いた両親への手紙を預かった。彼らとの別れがこれほどエモーショナルなものだとは思っていなかった桃太郎は思わず涙した。
港には無事辿り着いた。故郷の村へ帰ることにした桃太郎は、手紙を出すため立ち寄った龍宮城で乙姫から衝撃の事実を告げられる。何年か前にすずと弥太郎が龍宮城に来たというのだ。乙姫に2人の行方を尋ねると、試合への参加を条件に居場所を教えてもらえることに。友を救うため迷うことなく条件を飲んだ桃太郎。契約書にサインを終えると乙姫が口を開いた。実は弥太郎は犬飼らと始めたビジネスで財を成し、桃太郎の恋人だったすずと結婚。龍宮城には遊びに来ていたというのだ。動揺を隠せない桃太郎、その様子を愉しむ乙姫。試合まで3週間を切っていた。
結果として桃太郎は最後の3人に残れた。しかし漁村兄妹ら3人全員を解放するための目標金額には届かず、誰か一人を選ばざるを得なかった。しばらく悩んだ桃太郎は、漁村妹を選択。苦渋の決断だった。
それから1年。桃太郎と漁村妹は龍宮城近くの安アパートにいた。心的外傷後ストレス障害に悩む漁村妹に、故郷へ帰って療養するよう説得した桃太郎だったが、兄を救うまで龍宮城の近くから離れたくないという。桃太郎はそんな漁村妹のため龍宮城の試合に出場する機会を伺いながら昼は犬飼らと肉体労働を、夜はポーカールームで日々の生活費を稼いでいた。犬飼は弥太郎に騙され文無しになっていたのだ。そんなある日、漁村妹から頼まれたモンタナの三兄弟の映画と豪華客船の映画を借りに来ていた桃太郎は、雪国姉妹のアニメを借りに来ていたお雪とレンタルビデオ店で偶然再会。お雪は茂作を病院送りにしたあの試合の後、茂作の弟子と結婚していた。今は茂作の弟子と3人の子供を育てながら幸せに暮らしているという。そして桃太郎がこれまでの経緯をお雪に話すと、試合出場の件で乙姫と掛け合ってくれることになった。
それから3ヶ月。お雪が尽力してくれたおかげで、出場の機会を与えられた桃太郎。参加費はお雪が寄付を呼びかけ何とか集めたという。そして迎えた試合当日、会場入りした桃太郎はその対戦相手に驚かされた。非合法ポーカーの世界で活躍してきたラウンダーたちの他に、世界的なトーナメントを連覇した伝説の王者チャンの姿があったのだ。何としても桃太郎を勝たせたくない乙姫がこの試合の為だけに大金を払い招待したようだ。そのため桃太郎の敗退に賭ける者も多かったが、お雪や寄付してくれた人々、そして何より漁村兄妹の為にも絶対に負けられない桃太郎は、憧れ続けたチャンにブラフで勝利するなど並み居る強豪を抑え、漁村兄と通訳男を解放することに成功した。めでたしめでたし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます