第6話 世界一の人食い山だぞ!?

「……え? 岸岡たちは……さっきまでここにいたのにどこ行ったんだ?」


 あんな連中でも突然姿を消せば心配にもなる。

 岸岡たちを探してキョロキョロと周囲を見回すが、彼らの姿を確認することはできなかった。


 あの三人の心配をするオレに、ティフィアが何が起きたのかを説明し始める。


「大丈夫ですよ。あの三人なら無事です。邪魔だったので別の場所に移動してもらっただけですから」


「それってまさか瞬間移動か!? すげぇ……そんなことまでできたのかよ」


 人間を一瞬で別の場所へ移動させるなんて、すごいとしか言いようがない。


 ここまでされたらもう天使だと信じるしかないだろう。

 先ほどまではまだ半信半疑だったが、今この瞬間、オレはティフィアが天使であることを確信したのだった。


「……さて、邪魔者も排除したことですし、話を続けましょうか」


「ちょっと待った! その前に岸岡たちをどこに飛ばしたのか教えてくれよ。まさか自力で戻ってこられない場所じゃねぇよな?」


 あの三人が今どこにいるのかが気になり、質問する。

 帰ってこられないような場所に飛ばされたのだとしたら、さすがに放っておけないからだ。


「あのような不良たちの心配をするなんて、本当にお優しい方ですね。ですが、安心して下さい。転移先は国内にしておきましたから。その気になれば海外とか海の中とか宇宙空間に飛ばすこともできたのですが……パスポートも持たずに海外へ飛ばしたら帰国が困難になりますし、海中や宇宙空間だとそもそも一瞬で死に至りますからね。私なりの慈悲で国内にしてあげたというわけです」


「そうか……とりあえず国内にはいるんだな……」


 話を聞いて、ひとまず安堵する。

 国内にいるなら、そこまで心配する必要はないからだ。


「……ちなみに、国内のどこに飛ばしたんだ?」


「谷川岳です」


「慈悲なんかねぇじゃねぇか!! 谷川岳って世界でも有名な人食い山だぞ!?」

 

 つい大声でツッコんでしまった。

 しかし、それも無理はないだろう。人食い山と呼ばれる場所に飛ばしたと聞かされたのだから。


 群馬県と新潟県の県境に位置する谷川岳。

 美しい景色が楽しめるため登山やハイキングで訪れる観光客も多いのだが、同時に世界で最も多くの遭難者を出している山でもある。

 『世界一遭難者の多い山』としてギネスにも登録されているほどだ。

 そんな場所に何の装備もなく飛ばされて無事に帰ってこられるとは思えない。

 そんな危険な場所に転移させるなんて、ティフィアは本当に天使なのだろうか……。


 非常に危険な山という認識が強いため、どうしても取り乱してしまう。


 しかしティフィアは、「心配無用ですよ」と言わんばかりに微笑んだ。


「どうやら谷川岳についていろいろと誤解しているみたいですね。確かに昔は死者や遭難者が多かったのかもしれませんが、現在は観光地として有名ですし、特に夏は登山客やハイキング客であふれます。それにいざとなったら、スマートフォンや携帯電話で助けを呼べばいいだけですしね」


「そう言われると、そこまで危険はない気がしてくるな……」


 山の知識がまったくないオレには遭難者が多いというだけで恐怖の対象でしかなかったが、話を聞いているうちに過度に心配する必要はないような気もしてくる。


 しかも岸岡たちなら体力が有り余っているだろうし、案外すぐに帰ってくるかもしれない。


 そう考えたら、少しだけ安堵することができた。


「さぁ、安心したところで今度こそ異世界に行きましょう!!」


 ティフィアが本来の目的を果たすべく、話を戻してくる。


「切り替え早いな……」


 岸岡たちのことなどもう頭にはないらしく、強引に話を戻したティフィアに、オレはただただ苦笑するのみだった。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る