第19話

「楽しかったな! エリ様はマジで可愛かった!」

「そうですね」

「でもさ、私らには友達にならないのかって聞いてこなかったな」

「ジェシーさんもとっつきやすい人ですけど、エリ様は頭も感も良さそう方ですから、私たちがエリ様に抱いている畏れを直感的にわかってしまったんではないでしょうか」

「確かに、可愛いって愛でるのと友人になるって違うからなぁ。実際、友達って言われたらどんな反応していいもんかわかんないかも! これが畏れ!」

「エリ様は突出した才能を持った方ですし、その友人となって肩を並べるにはある程度の才能が必要なのかもしれないですね」

「なんだかそれって寂しいなぁ」

「そうですね。でも私達のような凡人が友人として側にいても、その才能に当てられて壊れてしまうのは私達の方でしょう。それがわかっているからエリ様からも距離を置くのかもしれません」

「ルナって相変わらず難しいこと考えるよね」

「癖みたいな物なんです。これは才能ですかね? 将来はエリ様を題材に本でも出版して一儲けしましょうか」


 今日出会った、優しく不器用な魔女の話をしながら、二人の少女は家路は肩を並べながら家路につく。


 エリは帰宅して、ご飯前にお風呂だと疲れを流すために大浴場に移動する。

 その間にリリーは主人の元へと赴き、今日の出来事を報告する。


「一人は動物的と言いますか。感が鋭い子で、距離感の詰め方が上手だと思いました。だからこそエリ様への最終的なラインは越えなかったんだと思います。もう一人の子は頭がよく、洞察力もあります。だからこそ自分では友人になり得ないと理解をしてしまったのだと思います」

「友人ってのは本来、そういうもんじゃないんだけどね。なまじエリの様に才能があり過ぎると難しいね」

「私は友人だった人が今では夫になり、義父や義母も友人の様に接してくれて、友人は多くはありませんが幸せデス」

「確かにね。友人なんて数ではないから。お前が言おうとしていることは正しいよ。報告、ご苦労」


 リリーが一礼して部屋を退出すると、ミリアは椅子に深く座り直して机から資料を引っ張り眺める。


「私も友人に含めてくれてもよかったけどね。流石に雇用主では無理か」


 暫くして、ヘレナが入室し、食事の用意ができたことを伝えてくる。

 

「わかった。三日後の予定で動くらしい、ヘレナも用意しておいてくれ」

「かしこまりました。私だけで大丈夫ですか?」

「ああ、エリのことも心配だしね」


 ミリアは広げていた、首長邸の地図をしまうと鍵を閉めて食堂へ向かう。

 食堂では風呂上がりのエリや、使用人一同が既に待機しており、主人の到着と共に料理が並べられる。

 比較的静かな食卓、騒がしいのはヘレナの息子であるマイケルくらいのもので、主に子供名前などで一人盛り上がっており、それをリリーがにこやかに聞いている。

 

「少し話がある」


 ミリアの一言でエリ以外の全員が手を止めて主人を真っ直ぐと見る。一人だけ魚の骨の処理を続けているお嬢様はいるが、気にした様子もなく主人が話を始める。


「三日後、ヘレナと少し家を空ける。ウィリアムは家のことを頼むよ。リリはーエリのことを見てやってくれ」

「「かしこまりました」」

「……どこいくの」


 興味なさそうに魚を突いていたエリが反応する。ただその言葉は確認作業であり、どこに行くのかはわかりきっているような声色だった。


「首長のとこにね」

「……わかった」

「できる範囲のことはする。心配はするな」

「……うん」


 主語こそないが、エリが気にかけ、ミリアが心配する人物は限られてくる。



 三日後の夕方にはミリアはヘレナを連れ立って、首長宅近くにある倉庫に赴く。

 中には既に多くの衛兵が待機していて、見慣れた衛兵長が席を勧めてくる。衛兵長以外にも偉そうなヒゲを生やした兵士がおり、ミリアに向かって敬礼してくる。


「軍部の大佐殿まで来てるとわね」

「お久しぶりです。賢者殿、ヘレナ殿も。都市の長による問題ですし、賢者殿のお膝元ですから、やってまいりました」

「それで、今回も帝国の嫌がらせなのか?」

「全容はわかっていませんが、嫌がらせの側面もあります。ただ狙いは様々で賢者様や街、国自体の弱体化、あわよくば麻薬を使ってこの街全体を裏から支配しようとしていたのかもしれません。計画的と言うよりは杜撰ではありますが。首長が関わっていたことで色々と握りつぶされていた様です」

「私を狙うと言うことは娘も狙われているのかね」


 ミリアの圧のある発言と睨みに大佐も一瞬怯みはするものの、無言で首を縦に振る。


「舐められたもんだね」

「おっしゃる通りです。ですが、お嬢さん護衛は宜しかったんですか?」

「大佐、貴方は勘違いしている。あの子に手厚い護衛をつけるんだったら、私につけた方がまだ有意義だね。それに娘を心配するならヘレナを置いてくるよ」


 ヘレナはニコニコと人当たりの良い笑顔で笑っており、大佐以外はなんのことか理解が追いついていないが、大佐は静かに頷いていた。


「それと追加での情報なんですが、帝国の魔法使いが数名と騎士が数名館に入ったようです」


 衛兵長が全員に見れる様に、木でできたボードを持ってくると、資料を貼り付けていく。


「魔導師かい?」

「恐らくは違うと思います。有名どころもおりませんし。ただ厄介なのには変わりないですな」

「とりあえず正面は私が相手をする。ヘレナは裏門の兵士のサポートにつけるよ」

「それは心強い」

「魔導師と魔法使いは違いがそこまであるのですか?」


 一人の衛兵が投げた質問について、大佐が鬼の形相になる。その顔を見て、衛兵長が部下と一緒に土下座をしそうな勢いで謝罪をしようとするが、ヘレナが割って入る。


「大佐、そこまで怒るな。その子もまだ二十歳そこそこだろう。戦争を知らず、街単位で育てた衛兵であれば知らなくても無理はない。いい時代になったもんだよ」

「そういう考え方もできますが……よいか、魔法使いはその言葉の通り魔法を使う者であるが、学校を卒業し一定のレベルがある者を指す。そして賢者の位は四年に一度ある品評会で素晴らしい発表をした者に送られる最高の魔法使いに送られる称号である」

「大佐は言い過ぎだろうね。私らから言わせれば魔法使いは総称で、賢者はそこそこ優秀な研究者。魔導師は戦争屋だよ。戦うことに特化した連中のことだよ」

「それは賢者様より強いのですか?」


 若い衛兵の質問に対して、衛兵長は頭を叩き、大佐は胸ぐらを掴んで投げようとする。


「やめな、若い子をいじめるもんじゃないよ。そうだね、いい質問だ。魔導師は私らよりも強いよ」


 現在の大賢者とも言われる人間が放った言葉に数人の衛兵たちが唾を大きく飲み込む。






 

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