第17話

 ミリア・グレイは賢者の中でも特殊な存在であり、賢者の位をここまで連続で得ている人物は多くない。

 そのため、魔法協会からも共和国からも、特にこの街の住人からは尊敬されている存在であり、多大なリスペクトを受けている。

 そんなミリアのお膝元ということもあり、エリが多重魔法論を発表した後もグレイ家には失礼極まりない人間以外訪れることはなかったが、中にはやはり失礼な者は存在する。

 失礼な連中は国内の人間であれば余程の馬鹿か他国の人間くらいなもので、全てリリーやヘレナが追い返している。


『この前にお前の友人が、演説をしていたぞ。リスペクトを感じる良いものだった』

 

 エリは友人という言葉に首を傾げる。


『いやいや、クラリス嬢のことだ』

「……利害関係の一致」

『そうは言うが、お前だって気に入ってはいるんだろ? 首長の娘という割にはスレおらんし、頭も回る。良い娘ではないか、友人は大事にしろ。私が言うのだから間違いないぞ』

「……うーん。友人ってわからない」


 エリの発言にどこから取り出したのかハンカチを出すと、大賢者は涙を流す。どれもこれもイメージのような存在なので実際に幻想に近い。


『そうか、そうか、ずっと一人だったものな。うぅぅ、心配はいらんぞ、私も師であり友人第一号だ。勉強時以外はレオンたんと気軽に呼ぶがよい』


 眠そうな目が更に細くなり、その視線は冷たい。

 おっさんの戯言を流しながら、髪の上にペンを走らせる。

 魔術の次は魔道具の勉強をする必要がある。作るのは誰かにやらせればいいが、多重魔法を誰でも使えるように現実化させるのには必須の項目となってくる。


『私の友人に腕の良い魔道具職人がいた。もしかすれば彼の地に赴けば奴も成仏せずに残っているかもしれん。私もそれなりに詳しくはあるが、専門の職人の知識は必要になるだろう』

「……そこまで小型化しないならやれそう」

『そうだな。まずは形だけ我々で作ってしまうか、そこまで小型のものでないなら難しくはないだろう』

「……うん」


 今後の方針を話すためにミリアの元に訪れ、大賢者との話を用意訳して話す。


「大賢者様の知り合いか。恐らくはグレタ・スチールフォージ様だろう、魔道具の生みの親と言われていた方だ。魔道具の聖地はここから馬車でも二週間はかかる。最終的に、魔道具の実現のためには向かう必要があるとは思うがある程度実現できるのであれば大枠を組んでしまってからでも問題はないだろう」

「……うん」

「最初から技師を入れた方が捗ることは多いぞ」

「……不安な要素が多すぎる。その他の知識も足りない。大枠までなら一人の方がいい」

「わかった。期間はどのくらいを考えてる?」

「……急いでないから。他の勉強しながら最終評価までに、まったりやる」

「三年目安か。わかった。エリ、お前の友人から手紙と茶の誘いが来ているぞ」


 受け取った手紙は庭に出てから、ライアンを枕に地べたに座って乱雑に封を開けて中身を確認する。

 ゴミは散らばらないように、ウィリアムが庭の整備ついでに回収をしてくれる。

 手紙の内容については礼節に則った挨拶から始まり、友人を交えたお茶会をしないかというお誘いだった。

 

 ついて来いとは言っていないにも関わらず、当然のようにライアンの横に立つリリーに視線を向ける。

 

「お嬢様が行ってもよいのであれば問題はありませんよ。時の人ではありますが、この街でご主人様の身内に手を出すような輩はおりませんので」


 エリは一つ頷くと、白い紙にスラスラと美しい文字を紡ぐ。季節の挨拶からはじまり、うっとりしてしまいそうな文章が完成していく。


「お嬢様って紙の上で饒舌デスね」


 お嬢様は手紙の内容は美しく紡ぐものの、便箋などには興味はないようで、白い紙のままだったものを、八歳の女の子が好きそうな便箋に詰めてリリーが変わって配達人に依頼をする。




 クラリスがエリに手紙を出す前に少し遡る。

 質問会が終わった後も彼女目当ての上級生を含めて多くの者が訪れるため、学長からクラスメイト以外は過剰な接触を禁止するように触れが出た。規則を破った者には停学の処分が下されるということになり、実際に停学者がそこそこ出た。


 そして元々クラスでは浮いた存在であったが、この機会を逃すものかとそっけなかったクラスメイト達も接近してくるようになり、彼女は辟易していた。

 数日経過し、我慢の限界に達したクラリスは朝のホームルームが終わると壇上に立って、机を大きく叩く。


「言っておきますが、私はたまたまエリ様と仲良くしていただけているだけです! そこまで深い仲ではありません! こちらかの接触なんてもっての外ですが、私が撮るに足らない存在ということを証明するためにもお茶会のお誘いを出します。万が一にも参加の許可が出た際にはクラスメイトの二名を抽選で招待します。これが最初で最後のチャンスです! 結果がどおあれ、過剰に絡んでくるのはやめてください!」


 心の叫びが爆発する。


「クラリス、それは先生もありか?」

「先生ってクラスメイトでしたっけ? あと、男子もダメです」


 先生と男子の悲痛な叫びが響く。

 公平な抽選のために、学長が立ち会いのもと、厳正な抽選結果が出た後に手紙を出すことになった。


(私とエリ様はアップルパイという利害関係があったから成立していた。ただのお茶会でしかも、呼び出しをするんだから来るはずがない)


 片や友人というものを知るため、片や自分では友人たりえないと考えた、思惑がそれぞれにズレ、結果的にはお茶会は開かれることになる。

 

 

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