第8話
「それで、エリは問題なさそか?」
「そうですねぇ、今は元気そうですぅー」
エリが黒い影を掴んでから直ぐに、今夜は励めという言葉を残して一週間眠りについてしまった。
起きてからは、失ったエネルギーを補給するように、いつもの倍以上の食事を平らげた。
リリーからことのあらましを聞いた、ミリアとヘレナは子供になんて話をしているというツッコミから、改めてエリについて考えさせられる。
エリが自分から話すべきタイミングを伺っていたが、そういう訳にはいかなくなることが続いた。
更に二ヶ月経過した頃に、リリーの妊娠が発覚した。
マイケルとリリーはエリの遺言に従って励んだ結果が良好な形で出たのだ。
「これは私の憶測だが、エリには我々には見えないものが見えているのではないだろうか」
「そうですねぇー。たまに一人でブツブツと会話してることも多いですし、大賢者様の書物だったり、ヒントは散りばめられtますよね。それに加えてみた物を瞬時に記憶してしまう才能。これは問題が多いですねぇ」
「エリを呼んでくれ」
「かしこまりました、ご主人様」
少しして、エリを伴ってヘレナが入室をするが、エリが入ってきた瞬間に残念そうな顔をした。
「……お菓子がない」
ミリアは澄まし顔のエレナを一瞥する。
「お菓子で釣ったのかい。話が終わったらいくらでも出してやろう」
「……いくらでも」
「あらあら」
ミリアは言葉の選択を間違えてしまったことに、眉間の皺を指で伸ばす。
「エリ、お前とは改めて話をしたい。まずはリリーのことを礼を言う。懐妊が確認できた、これもお前のおかげなのだろう?」
「……わからない」
なんのことやらと、見えすいた嘘を吐く。
「リリーは南の大陸で滅んだ、戦闘民族の娘でな。その部族には呪いのような、非科学的な物が蔓延していたらしく、真偽はわからないが。結果的に子供が非常に出来ずらい状況で滅んでしまい、生き残ったあの子だけ人身売買の組織に流れて来たとこを保護したのだ」
「……へー」
「まぁ、マイケルと恋仲になったのはいいとして、期待をもたせないように子供は諦めるように言ってたのだが、リリーが子供が出来ない限りは結婚するつもりはないと言っていた。それで今回の一件でお前には二人共に非常に感謝している。当然、私達もだ」
「……何もしてない」
「そう警戒するな。お前には二つの力があるな? 見た物を瞬時に記憶ができること、人に見えざる物が見えること」
エリは不思議そうな顔で真剣に考えていた。
そして、背後に立っていた変人に声をかける。
「……二つもあったの?」
『え? 知らんけど、見た物を覚えられるとか普通じゃないの?』
ミリアはガックリと頭を落として、非常に疲れたような表情を浮かべる。
「いいですか、そこにいるであろう大賢者様。逸話だとしても貴方は規格外だ、膨大な魔力を持ち、一つのことを十にも二十にもしてしまい、見た物を瞬時に記憶してしまう。ただ普通の人間は瞬時に記憶なんて出来ないし、本もあんな速度で読破したりしない!」
『そうだったのか! エリ、お前は二つの力を持ってたらしいぞ!』
「……ラッキー?」
「疲れた。ヘレナ、お茶と菓子だ」
ヘレナがお茶と菓子を並べ始めると、エリは無邪気にそれを頬張り始める。
変人と話をした後に、改めてエリはこれまでの経緯をミリアに話す。
「私もエリと大賢者様の目的には協力をしましょう。ただその目的を達成するためにはエリも魔術師になってもらう必要がある。これはエリに選択肢がある、お前は魔術師になる覚悟はあるか?」
『無理に魔術師にしようとは考えていなかった。この娘には書物の作成を手伝わせて、実際にはお前の実績として公表すればいい。私は自分の理論が証明できればそれでいい』
「……情報は出すから、ご主人様の実績にすればいいって」
「貴方の研究がどういったものかは予想がつく。多重魔法原理についてでしょう。理論の作成は問題はないとして、それを証明するためにエリの処理能力た記憶能力など協力は不可欠です。正直に申し上げて私では無理です」
「……手伝うけど」
「そうだな、話をしよう。誰が見ても私一人では立証が出来ないと、そこそこに優秀な魔術師であれば気がついてしまう。そうなれば手伝った者がいるだろう、ヘレナやその家族の実力は把握されている。そうなれば新参のエリの存在だと気が付かれるだろう」
『だとして、その何に問題があるのだ?」
「……わかってどんな問題ある?」
ミリアは砂糖を多めに入れた紅茶を飲み干す。
「そんな重要な実験を手伝えるような、人間がいたら誰だって欲しくなるだろう? 更にはお前の人に見えないものが見えてしまうことまでわかればどうなる? 私が生きてる間ならまだしも、私はエリよりも早く死ぬ。だからこそ、その子を守るには一刻も早く魔術と関わらせないように遠くに置くか、自分で自分を守れるように強くするか。だからこそ生半可な覚悟で大賢者様の都合に付き合わせてはならない」
『そうか……そうだな。小娘のいうことは正しい。悪かったな、エリ。私は飯で釣ってお前の気持ちや安全を蔑ろにしていた。いやはや、話せる相手がいると喜んでしまい、気が急いていたか』
ミリアの言葉で、大賢者も反省するように沈黙してしまう。
「……魔術をやれば食いっぱぐれない?」
「お前はまた食い物の話を−−」
「−−私には重要」
「そうか……そうだな。私のように優秀な魔術師になれば、食うに困ることなってないな」
「だったらなる。魔術師」
「簡単に決めていいのか? 魔道の道は険しい」
「これまでだって危なかったことばっかり。それにもうお腹が減るのは嫌だから。あとは少し楽しかった、本を読んで魔法を勉強するの」
「そうか」
『うぅぅ! エリ、私が立派な魔女に育ててやろう! 今日から先生と呼べ!』
変人が幽霊にも関わらず号泣し始める。
「……変態は黙ってていい」
『しどい! それに変態じゃないもん、泣いちゃうの!』
既に泣いている、変人が地面につかない足で地団駄を踏む真似事をする。
「うふふ、エリ様はそうなると思っていたけど、嬉しいですね。ご主人様の初めての弟子ですねぇ! 協会にも色々と報告しないと」
「そうだな。それとエリ、お前には私の娘になってもらからな」
「……娘?」
「それが一番安全だ。ヘレナ、書類の用意を頼む。あとはいるであろう大賢者様、下手なことを勝手に教えないように」
数日後には魔法教会に激震が走る。あの気難しいことで有名であり、弟子を取ることがなかった賢者、静寂の魔女と恐れられるミリア・グレイが弟子を取り、しかもその少女を娘として向かい入れた。
エリ・グレイという少女について、直ぐに周知がされ、一部の人間は調査を開始する。
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